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車はすぐ近くの、いつも通りがかるパーキングに駐められていた。予想通りというべきか、彼のイメージ通りの高級そうな白いセダンの車だった。
一番奥まった場所に駐められていたのが幸いし、ベビーカーは畳まず車の横に置くことができた。彼はそれを確認し、眠ってしまった灯希を抱えたまま助手席のドアを開けた。
「由依のタイミングで乗ってくれたらいいから。無理はしないで。僕は運転席に座っているよ」
灯希を起こさないよう静かに言って、彼は運転席側に回る。ゆっくりとそこに乗り込むと、音を立てないようドアを閉めている。音がしていないから、閉じただけのようだ。
車に乗るのは数年ぶりだ。緊張で心拍数が上がるのを、嫌でも自覚する。大丈夫だと自分に言い聞かせながら、ドアの向こうを覗き込むと、大智がこちらを見つめていた。その肩には安心して体を預ける灯希の無邪気な寝顔があった。
自分が欲しいと願った、家族の姿がそこにある。そう思うだけで込み上げるものがあった。
(怖くない……。大智さんを、信じてるから)
覚悟を決めて、おずおずと身を屈めて助手席に乗り込む。彼はそんな自分に手を差し出してくれた。その手を握り締めて、シートに座り足を中に入れる。ドアはそのまま開けっぱなしだ。
「乗れ……た……」
独り言のように呟くと、握られていた手に力が込められた。
「頑張ったね、由依」
「大智さんがいてくれるから、大丈夫だって思えました。それに……両親を失って、一生癒えることのないと思ってた傷も、たくさんの人が支えてくれたから、いつのまにかずいぶん癒えてたんだって、気付かされました」
ずっとそばにいてくれた樹や眞央、妊娠中励ましてくれた美礼に、今の職場に誘ってくれた松永先生。そして何ものにも代え難い、宝物である灯希。何よりそれを授けてくれた大智。
たくさんの縁が巡り巡って、再びこんなにも幸せだと思える日が訪れたのだ。
「ありがとう……ございます」
胸いっぱいに広がった感謝の気持ちと同時に、瞳から自然に涙が溢れ落ちていた。
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