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早く家族で一緒に暮らしたい。それは自分たちの願いでもある。
彼は若木先生にも相談し、例の女性の動向も探りつつ、そろそろ転居してもいいだろうと判断した。
新居は、今自分が住んでいる地域に絞って探すことになった。灯希の保育園も変わらずに済むし、何より、樹も眞央も寂しがるだろうからと彼は考えてくれていた。
と言っても、まだこの話を二人には出来ていない。元々前からちょうど忙しくなると聞いていたタイミングだったからだ。
まもなく、樹も関わるアパレルブランドのショーが行われ、それに眞央もスタイリストとして参加することになっている。二人は今それに集中しているところなのだ。
樹は『俺のことは気にせず、自分と灯希の幸せを優先して欲しい』と言ってくれた。
そしてまず、灯希のことを何より優先することにした。
自分たちが入籍すれば、灯希は彼の子になると勝手に思っていたが、実は別の手続きを踏まないといけないと聞いて驚いた。そのあたりは彼にお願いして手続きしてもらった。
今はもう、ちゃんと父として彼の名前が記されている。あんなにも一人で育てていこうと思っていたのに、空白でなくなった父の欄を見て安堵したのだった。
「お二人さん、お先! 大智はゆっくりしてこいよ。じゃ!」
若木先生は食事を済ますと、さっさと席を立って去って行った。会釈をしてその姿を見送ると、また食事に戻った。
「大智さん。お仕事、無理してませんか? 忙しいんじゃ……」
「大丈夫だよ。今までが働きすぎだったって若木先生にも言われてるし。由依こそ、僕のわがままに付き合わせて、無理してない?」
確かにこの数週間、平日はこうやって昼間に会ったり、自分が帰る時間に見送りに来てくれたり。彼は短い時間でも自分に会いたがった。それをわがままだと言っているのだろう。
「無理なんてしてません。毎日大智さんに会えて、こうやって話しができて嬉しいです」
素直に気持ちを伝えると、彼は手を止めて「僕もだよ」と微笑んでいた。
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