序章 はじまりの一夜

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「……怖い?」  大智は昔を思い出しながらじっと見上げていた由依に尋ねる。それから肩まで伸びた髪を優しく撫でた。 「怖くは……ないです……」  二十六才にして初めて経験する夜なのに、不思議と怖いと思わないのは何故だろうか。  大智の職業が弁護士だから、というのも違う気がする。何故か不思議と安心できる、優しいオーラのようなものを纏っている。そんな気がしたからかも知れない。 「よかった」  目を細め薄らと微笑むと、大智は由依の額に口付ける。それからその瞳を覗き込んだ。  その眼差しはまるで、自分を愛しいと言っているかのように穏やかで、どこまでも優しいかった。 (勘違い……しちゃいそう……)  こんなにも美しい男性に求められ、そんなことを思う。  今まで生きてきて、告白されたことも異性と付き合ったこともない由依にとって、ただ体を重ねるだけの相手にこんなにも甘い表情を見せるのが、普通のことなのかもわからない。  戸惑う由依の耳元に唇を寄せると、大智は囁いた。 「約束、して……。僕の前から消えないって……」  切なげな掠れた声は由依の耳を撫でる。それは、今まで感じたことのない不思議な感覚を呼び覚ます呪文のようだった。 「んっ……。大智……さ、ん……」  身動ぎしながら名前を呼ぶ由依に、大智はキスの雨を降らす。   「……何?」  そう返しながらキスを止めない大智の首に、由依はおずおずと腕を回した。 『約束はできません』 ――そんな言葉を飲み込んだまま。
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