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今日から強制同棲
「こんなのって強制──同棲みたいじゃない!?」
私は逃げ込んだ洗面所で頭を抱えていた。
新築特有の生活臭がまったくしない広い洗面所。いや、パウダールームと言った方がしっくりと来る場所で悩み倒すばかり。
大きなオーバルミラーに白い大きなボウル型の洗面器。金色の蛇口。壁は綺麗なタイル張り。
この場所に関わらず、どの部屋も豪華で洗練されていた。
こんなホテルライクな場所が今日から私の住む家になる。
「こんな家、前の家とは違い過ぎるっ。いや問題はそれよりも」
あの人も一緒に住む家だということ!
「い、一緒に住むって言ってもこれは決して同棲じゃなくって。私にはやむ得ない事情があって、お母さんの再婚相手の家──この家に転がり込むって事になっただけで! どうしようもない事情がある訳だしっ。お母さん達も居るし、すぐ出て行こうと思ってるし!」
つらつらと言い訳を述べる。
だから、これは私的には同棲ではない。
セーフ。
とか、思いつつ。
へなへなとその場に座り込む。
『同棲』と言う文字を辞書で引いて『一緒の家に住むこと』と、書かれていても私の辞書には載ってないから同棲ではないと、何度も言い聞かせる。
でもっ!
あの人の存在が気になって仕方なかった。
あの人とは伊織千晶。
「その人が何でここに……!」
この先は口に出せず胸中で事実確認する。
実は。
ホテルでワンナイトした相手で!
お母さんの再婚相手の息子で!
私の仕事先の上司で!
「さらに──これから一緒にこの家に住むなんてありえないでしょっ!?」
どんな確率でこんなことになるんだと、頭をぐしゃぐしゃと掻き乱していると──。
軽く扉をノックする音がして。
「大丈夫? なんか変な声がしたけど……気分悪いなら部屋に運ぼうか?」
スッと入って来た高身長の男性。
それはあの人。伊織千晶さんだった。
私の悩みの種を生み出し続ける、色んな意味で罪深い人。
しかもとびきりの美形と言うステータスを所持。
さらに罪深い人だった。
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