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扉を開いた先は大理石の玄関でピカピカしていて、どこもかしこも眩しいぐらい。
それに新築特有の生活臭の無さが真新しさを際立ていた。スリッパで部屋に足を踏み入れる事さえ躊躇してしまいそうだったが、千晶さんが手を引き。こっちだと室内に誘ってくれた。
マンションにしては長すぎる廊下を歩くと広い空間に出た。
千晶さんが言っていた通り、リビングダイニングは伸び伸びと広く、カーテンがない事でさらに解放感を感じた。
キッチンはそんな広々とした空間を見渡せるような場所に配置され、使いやすく勝手が良さそうだと思った。
「キッチンは結佳が好きに整えたらいい。バストイレはさっきの廊下の両脇。部屋もそちら側にある。で、ここがバルコニーだ。こちらも広さは十分あるから家庭菜園とかも沢山したらいいと思うし、俺もやってみたい」
千晶さんがカラリとバルコニーの窓ガラスを開ける。そうすると柔らかな風が室内に入り込み、私の髪を揺らした。
バルコニー専用のスリッパに履き替え、手を引かれるままにバルコニーに出ると目の前に抜けるような青空。遠くには緑の山。眼下には街並みが広がっていて小さく「凄い……」と、声を漏らしてしまった。
千晶さんは私の手を離して、変わりにぐっと私を抱き寄せた。
青空の視界が一瞬で変わり。
千晶さんの暖かな腕のなかに閉じ込められた。
いよいよだと思ってそっと顔を上げて千晶さんを見つめる。
「春には緑地公園の桜が綺麗に見えるそうだ。夏には花火も。──結佳、改めてだけども聞いて欲しい」
もちろんと、頷く。
早く言葉が聞きたい。
「俺は結佳と結婚をして、一緒に生きていきたい。そして、結佳が嫌じゃなければここで俺とずっと暮らしてくれないか。俺と結佳でここで暖かな家庭を築きたい。きっと楽しいことだけじゃなくて、衝突することもあるかもしれない。でも、そんなのは当たり前だ。二人で話し合って、乗り越えて。そう言ったこともここで一つ、一つ、積み重ねて行こう」
私を抱く腕に優しくきゅっと、力が込められるのが分かった。
その優しさに。
千晶さんの暖かさに。
胸がいっぱいになり。
──涙がこぼれてしまった。
「楽しいことも、苦しいとことも、悲しいことも、全部一緒だ。結佳となら何も怖いことはない。頑張れる。ずっと愛しあいたい。愛させて欲しい。結佳。俺の幸せには君が必要なんだ。だから──俺と結婚してくれますか?」
涙がまたこぼれる。
風が吹き抜ける。
ふっと大きく深呼吸して。
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