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日曜日
「私が放った光の矢が、あなたの心の的を射る」
日曜日。僕の平たい胸を指で撫でながら、静希は僕に言葉を投げた。僕はその意味がよくわからなくて、何も言えなかった。
「すると、あなたは眩い光を放つ。そうね、イエスキリストが復活するくらい、神秘的な光」
「僕は根っからの仏教徒だ。正直、キリストには何の信仰心もない」
「だとしても、イエスが偉大なのはわかるでしょう?」
「どうだろう。僕にとっては、小林多喜二の方が偉大だけど」
「小林多喜二って、蟹工船書いた人?」
「そう。プロレタリア文学の名筆家だよ」
それで、僕は眩い光を放って、どうなるの? それが僕にとって最大の問いだった。
「そうね、あなたは眩い光を放って、すべての物事に敏感になる」
「例えば?」
「例えば、女の人の喘ぎ声とか」
「それは誰だって敏感になるよ。もっと身近な例えないの?」
「もっと身近なものね。鳥の鳴き声とか、信号機の色とか、子供たちの愉快さとかなか。あらゆる景色があなたを刺激するの」
それが、新しい僕。いやはや、僕は奇妙な発言をする静希の不自然なくらい出っ張る頬骨を指で撫でた。
「どういう意味?」
「それはね、つまり、あなたは再び孤独になるってこと」
孤独。僕が一番嫌いな言葉だ。
「再び僕を孤独にするなんて、ほんとに救いようがない未来だ」
「そう、救いようがない未来をあなたは生きるの。生きるしかないの」
もう、孤独にはなりたくない。それなのに、静希はひどいことを言う。
「どうして? 僕には君がいる。静希、君はどこへ行くの?」
すると、静希はラブホテルの窓の外に映った快晴の空に視線を移し、「今なら、どこだって行ける気がする」と味気ない声で呟いた。
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