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月曜日
月曜日。東京タワーは空いていた。以前静希とこの場所を訪れたとき、彼女が「東京を象徴している建物ね」と呟いたことを思い出した。
『スカイツリーはまだまだ?』
『まだまだよ。やっぱり、東京タワーには勝らない』
僕は独り、展望台のチケットを購入して、エレベーターで高いところまで登った。高いところに行くと、鳥になった気分になる。僕らがまだ若人だった頃、この世界に対してもう少しだけ希望を抱けた頃、静希が目を輝かせて言ったのを覚えている。
『私ね、夢があるの』
『夢?』
『なんだと思う?』
『なんだろう。花屋さんとか?』
『私、花の名前なんてこれっぽっちも詳しくないけど』
『じゃあ、なんだろう』
『過去を忘れること』
静希は過去を忘れることができただろうか。
いや、できなかったから、今ここにいない。
帰りに、僕はガチャガチャで東京タワーのストラップを買って、それを傷み始めているリュックサックにつけた。
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