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「暁斗、これを私に見せたかったの?」
声まで潤んでしまった私に、暁斗はほんのちょっとだけ微笑んだ。
「去年、見たかったんだろ」
「そうだけど、どうしてここで?」
ふっと暁斗の目線が遠い夜空の花火へ向けられる。
「母さんが入院したとき、たまにここに来ててさ。神社で手を合わせて、帰りに一人でぼうっと景色見てて、気づいたんだ。方角的に花火見えるんじゃないかって」
なんでもないふうに言う暁斗に、また心がぐちゃぐちゃになる。そんなこと、一度も聞いたことがなかった。
ここは病気平癒の神社だ。
付き合っていたときはジンクスを気にする私を、暁斗は連れて来られなかった。だから一人で、祈りに。
「莉乃に見せたかった」
暁斗はいつも。いつもそう。話してくれないとわからないのに。
「違うな。莉乃と見たかった」
暁斗の声が少し震えた。
私は思わず手を伸ばして、暁斗の手に触れた。
その瞬間、触れた手が引かれ、腕が私を抱き寄せる。
気づけば私は暁斗の胸の中で、力強く抱きしめられていた。汗で少し湿ったシャツと、暁斗のにおい。私は声を詰まらせる。
耳元に触れる暁斗の息が震えながら言葉を紡いだ。
「……別れたくない」
暁斗の胸に押しつけた両目がぶわっと熱くなる。ドン、ドン、パラパラパラ……。暁斗の息遣いの向こうで、花火の音が遠く鳴り響く。
私は両手を暁斗の背中に回した。抱きしめ返そうとしたとき、暁斗が絞り出すように続けた。
「好きならできるはずのこと何もできないし、莉乃の理想とは程遠いかもしれないけど、それでも」
思いがけない言葉に、私はハッと息を呑む。
暁斗の揺れる声音で初めて気づく。好きなら話して、好きなら見て、聞いて、好きなら、好きなら――好かれているのかわからない不安からぶつけてきた言葉たちが、暁斗を苦しめてきたことを。
腕に力を込めて、しがみつくように暁斗を抱きしめる。
耳元に、莉乃、とささやく低く掠れた暁斗の声。
「好きだ」
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