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一年分堰き止めていた不安が一気に溢れ出す。埋めた胸の中で、私は声にならない声を上げて泣きじゃくった。
温かい感触が私の頭を包み込み、そのまま髪を滑る。
暁斗の手が私の頭を撫でた。一回、二回、三回。
その手の優しさに、思い知る。暁斗はずっと、あのときも、あのときも、あのときもあのときも思い出す全ての時間、私のことが好きだった。
無口で不器用なだけで、暁斗はずっと私を大事にしてた。
花火の音を乗せた風が、私たちのそばを幾度も通り過ぎていく。
そのたびに、私のしゃくりあげる声は少しずつ収まっていった。
胸の中でぐずぐず洟をすする私を、暁斗はずっと包んだままだった。
ドン、ドン、ドンドン、と花火が連続で上がる音がして、やがて消えた。
静かな風が吹くなかで暁斗からそっと離れると、シャツの胸には涙の滲みが出来ていた。濡れた跡に指先で触れる。
「ごめんね」
「いいよ別に」
「これまでずっと、ごめんね」
「……俺も」
顔を上げると、目が合った。暁斗ははにかみながら目を逸らす。つられた私も泣き顔が気恥ずかしくなって、両手をおでこで傘にして暁斗から顔を隠した。
「泣いたから、たぶん私ひどい顔してる」
「じゃあうち来る?」
なにがじゃあかわからなかったけど、私は笑って頷いた。
でも、と暁斗が続ける。
「家に着くまでは友達でいよう」
「なんで?」
「ジンクス」
素っ気ない答えに、思わずふふっと笑ってしまった。恋人同士で訪れると別れる。そんなのもうどうでもいい気もしたけれど、これもきっとジンクスを気にしていた私への暁斗の優しさだ。
「じゃあ、それまでは友達としてよろしく」
私の言葉に微笑んで、暁斗が手を差し出した。その手を握り、これから恋人になる私たちは並んで丘を降りていく。
〜おわり〜
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