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最後に暁斗が私に触れたのは、暁斗を拒んだ夜だった。
バイトが終わって暁斗の部屋へ行くと、彼はパソコンを開いていた。明日提出だから、と私に背を向けてレポートを書き続ける暁斗に、私は寂しくて心がささくれていた。
「暁斗」
んー。私の呼ぶ声に暁斗は生返事をするだけで、パソコンから目を離さない。
「暁斗」
「今ちょっと無理」
「……好きなら、こっち見てよ」
私の呟きに、暁斗は背を向けたまま小さくため息を吐いた。そしてくるりと振り向くと、片手で私の頭を引き寄せて、キスをしようとした。
暁斗が寄せる唇に、閉じていた口をさらに強く引き結んで拒んだ。
それに気づいた暁斗が顔を離した。
「嫌なの?」
嫌だった。おざなりなキスをして、肌を合わせればそれでいいと思われている気がして嫌だった。
しばらく私をじっと見ていた暁斗は、またため息をひとつ吐いて立ち上がり、シャワーを浴びに行ってしまった。
その夜は、暁斗のベッドでお互いに背中を向けて眠りについた。
静かになった暁斗の隣で、私は声を殺して泣いた。泣いて、泣き疲れてまどろみ始めたころ、ふわ、と頭を撫でる感触がした。一回、二回、三回。
離れた気配のあとで振り返ったけど、暁斗は背中を向けていた。
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