犯人は私

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 私は勉強の甲斐があってか、大学に入学することが出来た。大学1年生の冬、おばあちゃまが「成人式用に着物を用意したから取りいらっしゃい」と声をかけてくれた。おばあちゃまの方から、遊びにおいでと言ってもらえたような気がして、すごく嬉しかった。  長谷と桐生の両家で集まることはなくなっていたけど、皆、個別には祖母訪ねていたようで、祖母からはたまに夏向のわずかばかりの情報が手に入ることがあった。謝りたいからと夏向の連絡先を聞いてみたことがあったけど、伯母さんは当たり前のように教えてくれなかったし。逆に二度と接触してこないで欲しいと言われたくらい。おばあちゃまからも夏向に直接連絡しようとするのは止めにしておきなさいと諭されていた。 「夏向ちゃんは元気なのかな?」  私が思い切って祖母に聞いてみれば、高校の卒業は1年遅れたけど、大学生にはなれそうだと教えてもらうことが出来た。それ以上は、何を聞いても教えてもらえなかったけど。 「美月は青を基調にした柄にしてみたから。ドレスも青色が似合ってたからね」  紺に近いその青の着物には「不死・不滅」を意味すると言う美しい蝶の刺繍がほどこされていた。  青色か・・・祖母はあんな昔のことを覚えていてくれたのだ。  あれは私がまだ帰国して、日本の学校になじめなかった頃だった。夏向のピアノの発表会のドレスを選ぶついでに、私にもドレスを選んでくれることになったのだ。私を元気づける口実だということくらい分かっていた。そのあと食事でもしようということになり、結局、美登里伯母様、歩積君や両親まで付き合わされ、長谷、桐生家総動員のイベントになっていた。祖母には皆、逆らえない雰囲気だったから従うしかなかったのだ。 「そうね、美月ちゃんは女の子だしピンクのドレスの方がいいかしら?どう美月ちゃん?」 「……うん、私もそれがいいかなって」  私はその時、嘘をついた。だって、おばあちゃまがそう言うなら、そうすべきだと思っていたから。 「なんで?美月ちゃんはブルーのドレスの方が似合うよ。色白だし、絶対、青。ピンクじゃない」 「もう夏向、勝手なこと言わないの」  長谷のおば様、夏向の母はそう言ったけど、私は夏向のその言葉が嬉しかったのだ。だって私が着たかったのは、ブルーのドレス。私がピンクじゃないブルーのドレス視線を送っていたことを彼女は気づいていたんだと思う。 「夏向ちゃんもそう言うのなら、どうかな、美月も青のドレスも試着させてもらえば?」  角が立たないように助け船をだしてくれたのは義兄の歩積だった。 「そうねぇ、せっかくだから両方着てみて、それから決めましょう」  おばあちゃまは、どうやら着道楽らしく、そちら方面には潔よいくらい金払いがいい。  ドレス選びはどうしたところで、スポンサーのおばあちゃまの意見が通りやすい状況だった。義母はお姑さんの言うことには逆らわないだろうし、祖母の実の娘である夏向の母親も面倒なことには巻き込まれたくないというスタンスだったから。その中で、忖度なしの意見を言える夏向は純粋にスゴイと思ったものだ。 「夏向の言うとおりね、美月には青のドレスの方が似合うわ。夏向はどれにする?」 「私は無難に黒とか紺とか?ピンクとか絶対似合わないからね」 「面白味がない子ねぇ」 「それはこの顔の作りのベースになったお母さんに言ってよ」 「それを言うなら、私だって同じことを言うわよ」  夏向、彼女の母の長谷のおばさん、おばあちゃまの会話は遠慮がなくて天日もいい。三世代の女性たちに仲のよい血のつながりを感じた。   「はいはい、全部の責任は私になるわけね?」  これで話は打ち切りというようにおばあちゃまが言いきった。おばあちゃまは私のことも可愛がってくれるけど、多分、夏向には遠慮のない愛情があるのだと思う。 「じゃあ、ドレスを用意してもらっている間に軽く食事でもしようかね」  夏向は私が試着している間にちゃっかり自分のドレスは選び終えていたらしい。  その日はおばあちゃまの実娘である長谷の伯母様と娘の夏向、おばあちゃまの息子である私の父、その桐生と再婚した義母、その連れ子である義兄の歩積、そして私とのフルメンバーでの初の顔合わせの会でもあった。今でも、おばあちゃまの箪笥の上のフォトフレームにはその時のドレスを着た私たちが笑っている。もう、こんな写真を撮ることはないだろうけど。  父の都合で長いこと海外赴任をしていたから、私は夏向と長いこと会っていなかった。この前会ったのなんて七五三のお祝い、それもお互いが3歳の時以来だったから、お互いのことなんて殆ど覚えていなかった。だけど夏向は「美月ちゃんに会えてうれしい。これからは一杯遊べるね」と真っすぐに微笑みかけてくれたのだ。その笑顔がとってもまぶしく見えたのを今でも覚えてる。  もうそんな笑顔が私に向けられることはないね。
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