犯人は私

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「お茶を入れたから、おあがり」  着物を手に取って、多分、ぼーっとしているように見えたであろう私に祖母は声をかけてくれた。 「夏向ちゃんもこっちで着物着るの?」と私が聞いたところで、おばあちゃまは「どうかねぇ」と答えるだけだった。  私の着物をおばあちゃまが箪笥から取り出すときに、真新しい、たとう紙がもう一つ見えたから、きっとあれは夏向のものだ。でもきっとこれ以上、聞いたところで、おばあちゃまは何も話してくれないのだろうことは分かっている。引きこもってしまった夏向が東京を離れて高校生活をやり直するきっかけを作ったのは、この祖母だ。どうにもならないかに見えた状況に打開したのがこの人。祖母が娘である長谷の美登里伯母様と引きこもっていた夏向を旅に連れだしたとか。詳細は教えてもらっていないけど、夏向は実父のところにいるらしい。そんな話を両親がしているのを聞きかじっていたから。 「私、いつか夏向ちゃんと会えることあるのかな?」 「どうだろうねぇ。私の葬式には集まるんじゃないかい?」 「そんな縁起でもないこと」  おばあちゃまはそんな風に笑って言ったけど、次の言葉が私の心にすごく重かった。 「そのぐらいの状況じゃないと、まず無理だろうねぇ」  多分、3年たった今でも、ちょっとでも許してもらおうなんて全然無理なんだなと思い知らされた。あれから、夏向に連絡を何度かとってみたけど、普通に拒否設定されていて、何なら使っていたスマホは解約されていた。歩積も同様で、あれ以来、私は二人と連絡をとれなくなっていた。少なくとも二人の新しい連絡先が私に知らされることは、この先もないんだろう。 「着物ありがとう。大切にするね」 「二人が並んでる姿を写真に撮りたかったねぇ」  祖母の箪笥の上のフォトフレームが更新されることはない。皆が映る写真を撮れる日はくるんだろうか。
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