そのままがいいと言ってくれたから

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 あの暴行事件から間もなく、僕も夏向と美月がいる学校に転校した。  彼女たちの所属する小学校は中高までの一貫教育の付属校だった。校風も比較的自由らしく、長谷の伯母さんから「あの学校だったら、髪をわざわざ染める必要はないわよ」と言われたのがきっかけだった。夏向ちゃんから僕が学校から黒髪に染めるように強要されたのはヒドイと聞かされた伯母がどうやら、問い合わせてくれたらしいのだ。あの事件でイジリとイジメのグレーゾーンまで明るみに出たタイミングだったので、僕の母もそれならと、さっさと転校を決めた。それがきっかけで、日本での僕の学生生活は快適なものになっていったしね。  夏向ちゃんがいるところは、おひさまがよく当たっているような気がする。彼女のそばにいるとあったかだ。そんな風に思わせられた一連の流れ。僕も美月も転校してからは、問題もなく普通に過ごせていたから。 「やっぱり歩積君はその髪色のほうが似合ってる。そのままがいい」  その言葉に僕は自分を全肯定されたようで、とっても気が楽になった。たかだか小学生の思いつきの言葉だというのに。それから夏向ちゃんとスゴク仲良くなったりはしなかったけど、夏休みや正月にばあちゃんちで顔を合わせたり、二人が中学にあがってからは、学校でもたまに見かけるようになっていった。なにせ学校が同じだからね。  プレッシャーから解放されたせいか、僕はあの暴力事件の後かなり背が伸びた。夏向ちゃんの方も中学に入った後も伸び続けていた。美月だけはほとんど変わらなかったけど。骨格もしっかりしてきた僕は、多分、今度は殴られても反撃ぐらいは出来そうになっていた。何なら、空手も習い始めていたし。もう、夏向ちゃんに格好悪いところは見せないで済むと思う。 「夏向はいつまで伸びるつもりかしらね?」  そう伯母さんは溜息まじりに言っていたけど、長身の夏向ちゃんは、ばあちゃんが気まぐれに買ってくるどんな洋服でもその身長でなんとなく着こなしてしまう。だから身長の高いことは気にする必要はないと思うとは、さすがに恥ずかしさもあって言えなかった。 「ばあちゃん、この民族服、どこで買ってきたの?」 「いい柄でしょ?アフリカのデザインみたいよ。古着屋さん、のぞいてたら面白い生地があったからワンピースにしてみたのよ。涼しいでしょ?」 「結構、快適」  ちなみに美月には、ばあちゃんはそういったものは絶対作らなかった。娘の子供と息子の子供は勝手が違うのか、夏向ちゃんと美月のキャラの違いによるものなのか不明だけど。 「もう少し伸びれば、夏向、モデルさんも夢じゃないんじゃない?」 「私、骨太いし、筋肉もついてるから無理。それにスポットライトとか、あんな歩き方とは向いてない」 「それもそうね」  いや、いけるんじゃない?そう反論したくなったけど、言葉にはしなかった。そんなにあっさり諦めなくてもいいとは思うけど、多くの人の目に夏向ちゃんが晒されるのは気が進まない。  夏向ちゃん、君はきっと将来アジアン・ビューティー系になるよ。そんな妄想をしたくなるくらい、夏向ちゃんが成長していくのが楽しみになっていった。これって、ほとんど光源氏気質じゃないかと思われてきた。自分、キモ。  何度も言うようだけど、僕はロリコンじゃない。
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