守ってあげられなくてゴメン

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守ってあげられなくてゴメン

 夏休み中も体調が戻らなかったらしいナツは、僕の家庭教師の時間も少しずつ減らしていった。2学期が始まっても、制服を着て登校しようとするらしいけど、玄関から外に出られないらしい。ナツの母親、美登里伯母さんが心配して、心療内科にも通うようになっているという。食事をとっても、すぐに吐いてしまうとか。ベッドから起き上がるのも面倒になっているようだ。そしてついさっき、「家庭教師はお終いにして欲しい」とナツの母である伯母から連絡が入った。何度かナツの家を訪ねたけど、家には入れてもらえなくなっていた。誕生日にいつも贈っているハンカチを渡そうとしたけど、ナツが受け取りを拒否しているからと、伯母さんから「ゴメンナサイ」と返された。  2学期が始まって、3か月がたつ。このままだと出席日数の関係で留年になるかもしれないと義父までが心配するようになっていた。 「歩積、今度、このショップ一緒に行かない?」 「行かない」 「なんで?」 「嘘をついたから」 「嘘?」 「ナツをちゃんとクラスメイトとして仲間に入れてあげると約束しただろ?」 「私はもう何もしてない。学校のプリントとかちゃんと持って行っているし、伯母さんともナツの心配しているし」 「お前ひとりがナツを仲間外れにすることを止めたところで、クラスの雰囲気までは変えられなかったんだろ?」 「私はちゃんと夏向も仲間に入れてあげてって言ったもの」 「最初にナツを外そうとしたのはお前だろうが」 「だって、あれは夏向が約束を破ったから。歩積が夏向と二人でデートなんかするから」 「だから、ちゃんと言う通りにして、お前と付き合っただろう?」  涙でいっぱいの目を僕に向けたところで、こっちの気持ちは動かない。浅慮だったんだと思う。美月は狡猾にナツをいじめのターゲットになるようにクラスを扇動したらしい。「夏向って、ちょっと人の気持ちに鈍いところあるっていうか」そんな他愛もない彼女の発言がクラスに伝播していく。中学からそれほど顔ぶれが変わらないという進学クラス。彼女はそこの王女様。女王は別にいるらしいけど、そこそこの地位を築いている。発言力のある彼女が囁けば、それは圧力だ。  僕と二人で遊園地に出かけたことが引き金になって、ナツはせっかく入った進学クラスでハブられたらしい。それがどれだけ苛烈だったのか。あのナツが不登校になるくらいだから、多分想像以上。それを止めるために、美月の言う通り、美月と付き合うことにした。ただナツに変わりない学生生活を送ってもらいたかったから。でもそれは無駄だったみたいだね。
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