あなたと話がしたいから 〜茶座荘の日常〜 6

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 株式会社『FREE TALK』では、何でも屋として日々様々な依頼をこなしている。都心から離れた山の上にあるこの会社は、主に近所の一人暮らしをしている高齢者の生活のサポートと会社の代表である佐倉(さくら)浩介(こうすけ)の古巣である劇団の大道具や公演の運営をしている。夏になるとイベントのお手伝いなんかもやっている会社だ。  浩介の高校の同級生である私、原田(はらだ)愛那(あいな)は、社屋兼社員同士でシェアハウスをしているここ茶座荘(さくらそう)でカレーを作り続けている。これは浩介の思いつきから始まったものだった。  *** 「愛那、このカレーここで売ってみない?」  そう浩介が言ったのは、劇団の公演終わりで茶座荘に戻ってきて、リビングでケータリングとして劇団員に振舞ったカレーの残りを食べているときだった。  少し前にカレーイベントのお手伝いをしたとき、とあるスパイスカレー店の店長から作り方の基礎を教えてもらってからというもの、趣味程度に家で作ってみたら思った以上に好評だったので、最近は大量のお弁当が必要なときにカレーを振る舞うことが増えた。  カレーはどこに行っても割と喜ばれるし、弁当代も安く済ませられる。何より、スパイスの配合を考えながらルーを作る時間は集中力が高まっていいストレス解消になる。だけど、売るとなると話は違う。この家で売るの?  戸惑う私に浩介は1枚の写真を見せてくれた。この家の昔の写真らしく、高齢の女性がここのリビングでケーキとお茶を運んでいる姿が映されている。 「昔ここで簡単な喫茶室をやってたんだ。俺のばあちゃんが1人でやってたんだけど、お茶と軽食を出してた。お客さんも近所の友達とかがほとんどだったんだけど、楽しそうだったんだよね。 近所でサポートしに行っているおばあちゃん、中川さんも言ってた。昔ここでのんびりお茶をするのが楽しかったって。まあ、その時は単なる昔話だと思ってたんだけど、このカレーを沢山の人に振る舞えないかなって思ったとき、これを思い出したんだ。大掛かりじゃなくていいから、ここを喫茶室にしてみない?」
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