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三章 夢醒
目が覚める、視界に入ったのは自著と溢れたアルコール。
「結稀やっと起きたか、おはよう」
「……おはよう」
目を擦る、既に夜が明けていることに気づく。
「やっぱり結稀の小説ってすごいよな」
「え……?」
「うまく言葉にできないけど、『人間に対して描いてる』気がする」
彼のスマートフォンには、僕の小説投稿ページが映っている。
目を細めると、そこには初投稿作品があった。
「人間に対して、か」
「意識してるわけじゃないの?」
「意識とかじゃないかも、使命」
「使命か……」
「僕もよくわかってないんだけどね、頭に染み付いてるんだ」
難しく眉間に皺を寄せた後、何かが吹っ切れたように彼の口が開く。
「事実、結稀の作品に惹きつけられて俺はここにいるんだよ。結稀の小説には不思議な力があると思う、本当のことはわからないけどさ」
怠さの残る身体を起こし、壁にもたれ腰掛ける。
自著に記された名前が、僕を示す言葉だということに初めて実感が湧いた。
何度『結稀』と呼ばれても、どこか他人事だった僕は、この瞬間やっと『結稀』になれた。
「結稀」
「ん?」
「夢が叶って最初に見た夢はどんな夢だった?」
「どこか胸が苦しかった、逃げたいものの前で首根っこを掴まれてる感覚の夢」
「悪夢か」
「いや、」
「え?」
「僕にとっては、それが瑞夢かな」
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