三章 夢醒

1/1
前へ
/5ページ
次へ

三章 夢醒

 目が覚める、視界に入ったのは自著と溢れたアルコール。 「結稀やっと起きたか、おはよう」 「……おはよう」  目を擦る、既に夜が明けていることに気づく。 「やっぱり結稀の小説ってすごいよな」 「え……?」 「うまく言葉にできないけど、『人間に対して描いてる』気がする」  彼のスマートフォンには、僕の小説投稿ページが映っている。 目を細めると、そこには初投稿作品があった。 「人間に対して、か」 「意識してるわけじゃないの?」 「意識とかじゃないかも、使命」 「使命か……」 「僕もよくわかってないんだけどね、頭に染み付いてるんだ」  難しく眉間に皺を寄せた後、何かが吹っ切れたように彼の口が開く。 「事実、結稀の作品に惹きつけられて俺はここにいるんだよ。結稀の小説には不思議な力があると思う、本当のことはわからないけどさ」  怠さの残る身体を起こし、壁にもたれ腰掛ける。 自著に記された名前が、僕を示す言葉だということに初めて実感が湧いた。 何度『結稀』と呼ばれても、どこか他人事だった僕は、この瞬間やっと『結稀』になれた。 「結稀」 「ん?」 「夢が叶って最初に見た夢はどんな夢だった?」 「どこか胸が苦しかった、逃げたいものの前で首根っこを掴まれてる感覚の夢」 「悪夢か」 「いや、」 「え?」 「僕にとっては、それが瑞夢かな」  
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

162人が本棚に入れています
本棚に追加