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四人目『想い出予約』
「お前文化祭誰と回るか決まった?」
「まだかな、出店のシフト決まり次第かなって感じ」
「なるほどね、言われてみれば俺もそうかな」
一週間後に控えている文化祭準備の途中、廊下での雑談。
「颯太は?誰と回んの?」
「僕……!?僕は迷い中かな」
「何焦ってんの?もしかして……」
真実を語るために周囲の安全を確認する、聞かれるわけにはいかない個人的国家機密を告げる。
「……椿ちゃんと一緒に回りたいんだよ」
「青春しやがって……もう誘ったの?」
「そんなっ……声すら掛けれてないよ」
目で追って、目が合えば逸らしてしまう。
勇気の欠片もない僕が交わしたのは数ヶ月前の「おはよう」が最後。
「颯太何やってんだよ……そんなのこっちから声掛けないと取られちゃうぞ?」
「そんなことわかってるよ……でも」
「椿ちゃん、たぶん颯太に気あるよ」
「え?」
「だから『椿ちゃんの好きな人、たぶん颯太だよ』って言ってんの」
「……それほんと?」
「椿ちゃんが仲良くしてる女子から聞いたんだよ」
そう言われてすぐに文化祭準備中の彼女の横顔を見る。
必死に作業に取り組む顔が健気で、無垢さに満ちていて可愛らしい。彼女が僕の彼女になったことを想像すると勝手に口角が上がってしまう。
「椿ちゃんってもう一緒に回る子とか決まってるのかな」
「まだ決まってないんじゃない?そんなの誘うしかないよね?颯太」
文化祭というイレギュラーが認められた一日、きっと当たって砕けたとしても、それを経験するチャンスはその日しかない。
「なぁ颯太」
「ん?」
「椿ちゃん、出店のコンセプトで何のコスプレするか知ってる?」
「コスプレ……!?」
「知らなかったのか?好きな子のことなのにー」
「一生のお願い!詳しく教えて!」
情けなく縋り頼る、好きな子の、可愛くてしかたのない子の可愛い姿は、絶対に見たい。
「メイド服着るんだって」
安直だがそれがまたいい、素晴らしくいい。
全男子の夢と言っても過言ではない『好きな女の子のメイド服』それはもう……恥を惜しまずに見るしかない。
「颯太って椿ちゃんと連絡先交換してたっけ?」
「インスタでは繋がってるけど……」
「そこ繋がってるならDMの一つや二つするのが常識だろ……!誘っちゃえ誘っちゃえ」
数メートル先にいる彼女を見ながら、隠れたフリをして好意の端切を伝える。
『文化祭一緒に回らない?写真とか撮りたいな』
恥ずかしさに反して止まらない指と火照る頬。隣から、それを讃える声が聞こえる。
「颯太も男になったな」
「お前は誰と回るんだよ」
「俺はもう彼女がいるからさ、それ以外選択肢ないだろ」
自慢げな表情と声色が羨ましい、そして何より微笑ましい。
数メートル先の彼女がスマートフォンを手に取り、画面に目をやる。指が動く。
『誘ってくれてありがとう!一緒に行けるの楽しみにしてるね!』
数秒後、僕の元には可愛らしい好意の端切が返ってきた。
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