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五人目 『内密スナック』
「ここから部活は流石にきついよねー」
「わかる……体育館暑すぎるし」
体育館横の通路で項垂れる、額にあたる風が心地いい。
「沙月は今日何時まで?」
「十八時まで……いつもより一時間長いの……流華は?」
「一緒一緒、じゃあ帰りのバスは一緒だね」
気だるくスマートフォンに掲載されている時刻表を眺める。
「沙月って今週末が大会だっけ?」
「そうそう夏はバレー部試合詰められるんだよね、バスケは秋から冬にかけてが忙しいよね」
「そうそう、ちょうど寒くなる時期だからなぁ」
競技の違う私達にとって、体育館使用日が被る日の時間は貴重だった。
「こっちは言うほど厳しくないからなぁ、バレーの顧問ほどガチじゃないし」
「こっちの顧問は経験者ってこともあって熱量高いからね」
「試合中の声かな?バスケ部まで聞こえてくるよ」
「どの先生よりも声だけは大きいんじゃないかな」
少し揶揄うように笑う、小さめの声で、聞こえないように。
「でも技術は高いからなぁ……やっぱすごいよ、あの先生」
「そうだね、ちょっと気難しいし面倒くさい時もあるけど圧倒的実力者って感じ」
裏でしか話せない本音の本音。
「沙月ちゃーん、ちょっとこっちおいでー」
体育館内から聞こえる先輩の声。
「どうかしましたか?」
「今日先生が見に来るの遅いらしいからさ、コレ食べない?」
企みの笑みを浮かべた先輩の両手には私の好きなスナック菓子。職員会議が長引くと恒例で執り行われるお菓子パーティー。
「いいんですか!?外に流華もいるんですけど……一緒にいいですか?」
「もちろん!それならバスケ部も全員呼んで盛大にやっちゃおうよ!」
声を掛け回り、女子更衣室へ集まる。
私達だけの当たり前のような非日常、他愛のない会話と飛び交う笑い声。
「ちょっと静かに……!」
響く規則正しい音、顧問の靴底が床と擦れる音。
「やばい!急いで片付けて体育館入るよ!」
謎の団結力と一体感。
勢いよくシューズを履き替え体育館へ駆け出していく、ボールを片手に整列。
「練習しててくれて安心したよ、そのまま続けて」
先生ごめんなさい、私達、最高に楽しい瞬間を味わっていました。
でもきっと先生にそんな嘘は既に見抜かれている。その優しさの起源は十数年前、似た最高を味わった彼自身の想い出からなのかもしれない。
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