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それからしばらくして、旦那の家と華恋の家を何度も往復して自分の荷物の全てを移動させた。それを見ていた旦那は諦めがついたのか、最後の日にはあっさりと離婚届にサインしてくれた。旦那曰く、不倫相手と別れたと言っていたが、だからと言って気持ちが戻るわけではない。どうにかして私の気持ちを引き留めたかったのだと思う。もう未練なんてなかった。華恋と一緒に役所まで行って離婚届を提出して独り身に戻った。
あれから一年経った。私も華恋もイラストレーターとしての仕事が増えて地方で仕事をするには不便になってきていた。イベントや個展があるたびに交通費がかかってしまう。そのためにも都会の方に引っ越しをすることにした。どこに引っ越そうかと話し合っているところで華恋がこんな提案をしてきた。
「ねぇこの街どうかな。アクセスもいいしさ、家賃もそこまで高くない。なにより、パートナーシップ制度があるのが、個人的には嬉しくて……」
「パートナーシップ制度? なにそれ」
珍しく華恋が赤面する。そんなに恥ずかしがるようなことなのだろうか。
「ほら、今って法律的に同性の結婚は認められていないでしょ? だけど、それを条例として認めている街がいくつかあるの」
「結婚しようってこと?」
「もう! そういうことは私の方からちゃんと言わせてよ!」
そうか。華恋は本当に私のことを愛してくれているのだ。一年一緒に暮らしてきて、私も華恋に家族のような感情を持つようになっていた。だから、国では認められなくても、一部で家族として認められるのなら歓迎だった。
「いいよ。その街にしよう。私も華恋と家族になりたい」
そういうと華恋は初めて私の前で涙を流した。本当に一筋だけの涙。
「私、絶対都子を幸せにするから」
「もう幸せだよ。十分すぎるくらい」
再び引っ越しをして新しい街に来た私たちは家を整える前に、すぐにパートナーシップ制度に申し込んだ。その帰り道、インテリアショップに寄ってカーテンを探していた。
「都子はカーテン何色がいい?」
「青、かな」
「青って幅広いね。どんな青が好きとかある?」
改めて考えてみる。今まで好きな色は青だと答えてきたり、イラストにも多くの青を使っていた。澄んでいて透明感すらも感じさせるような、美しい青。
「空みたいな青かな」
「いいね、それ探そう」
二人でリビングにかけるカーテンを探していた。どこまでも遠くまで続いているのに、手を伸ばせば触れられそうで触れらないそんな青。そんなこれからの生活に、これからの未来に多くの期待を託して、私たちは一つ一つのカーテンをめくっていった。
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