カーテンは空の色

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 昨日と同じ過ちを繰り返さないように、今日はスマホでしっかりとアラームを鳴らした。ちゃんとその時間に作業を終えて、夕飯作りに取り掛かった。夏野菜のカレーを作ろうと調味料棚を開ける。いつの頃だったか、スパイスからカレーを作る人に憧れて習ったことがある。今日は久々にその腕を見せる出番だった。クミン、ターメリック、ガラムマサラ、シナモン……。バランスよく入れて混ぜていくと香り高いカレーが出来上がる。お皿に盛り合わせる野菜にも火が通ってあとは旦那の帰りを待つだけとなった。いつもなら作業をして待つが、今日はリビングで待とう。特に興味はなかったが適当なバラエティ番組を流した。旦那が帰ってくるのが待ち遠しかった。  だが、いつもの時間を過ぎても帰ってはこなかった。電話を掛けようかとスマホを手に取った瞬間、玄関のドアが開く音がした。飛び上がっておかえりと出迎える。 「ただいま。遅くなってごめん。今からご飯作るよ」 「ううん、昨日作ってもらったから今日は私が作ったの。お腹空いてるでしょ。温めるね」 「ごめん、実はもう食べてきたんだ」  コンロの火を付けた手が止まった。カウンターキッチンの下に隠れた顔がひきつっている。 「それなら仕方ないね。カレーだからまた明日にでも食べよう」  上手く笑えているか、わからなかった。旦那はもう一度ごめんと謝ったが、気にしないでとは言えなかった。愛する人のことを想いながら作ったご飯を一人で食べる惨めさを思い出した。なるほど、昨日私がしたのはこういうことだったのか。胸が締め付けられて、痛くなった。自分の分だけをお皿に盛ろうとしたところで、お風呂は沸いているかを訊かれた。 「あ、ごめん。忘れてた」 「ならいいよ」  いつもこうだ。なにか一つやるたびに、なにか一つ忘れてしまう。こういう器用に立ち回れない自分のことが憎くなる。  明日こそ一緒に夕食を食べようと考えたが、明日はスマホゲームの新キャラのデザインについての会議が入っていたことを思い出した。仕事の管理をしてくれている妹から、明日の集合場所と時間が送られてきた。コロナでリモートワークがほとんどとなっていた世の中も、少しずつコロナ前の日常に戻りつつあった。久々に対面で話し合いながら、キャラ設定を考えられるのは楽しみだった。だが、それよりもここ何日も旦那と食事できていないことの方が気になった。  だが、そんな考えも妹からの電話で吹き飛んだ。 「都子、明日見せるラフ案何枚か描いてあるよね?」  一枚だけと正直に答えた。すぐに叱責の声が飛んできた。今夜は徹夜することになりそうだ。
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