過去

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過去

良かった。 ここは過去だ。 「どうしたの?ほっとした顔して、さっきまでぼおっとしてた癖に。」 そしてあの言葉が来る。 「運転、変わる?」 「いや、そのまま俺が運転するよ。」 きっと、あの事態は免れない。 急だった。 お互い50である俺らには、 たとえ気づいたとしても、 無理だった。 今の俺でも無理だろう。 しかと俺は犯人の顔を確りと妻に伝える。 ただ、それだけ。 そしてあの時が来る。 顔を見た。 直ぐに男は顔を隠した。 まるで俺の事を知っているかのように。 俺は恐怖を感じた。 でも気の所為だろうと。 でも、もうすぐ俺の死期なのに、 なのに、 声が出ない。 出ない。 出ない! そしてぶつかる。 俺の血が散っているのがわかった。 匂いと、 徐々にフェードアウトしていく視界の中で、 確かに、俺の血であろう赤いものが飛び散っている。 聴覚だけは少し残っている。 残酷な音が聞こえてくる。 妻を殺す音。 「だから言ったのに……」 「過去と行動をしろって……」 この声は、さっきの男だ。 「結局人って、鹿だな。」
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