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夏ー4 今が正解かどうかは、まだわからないけれど。
夜は、カレン、ジョンズワート、ショーンの三人で過ごした。
ラントシャフトからホーネージュに向かう旅の間も、この部屋割りになることがあったから。
ショーンは、特に嫌がる様子もなく、ジョンズワートと共に過ごしていた。
今回は家族三人で過ごしたいと話してあったため、入浴時も使用人の補佐はない。
デュライト邸にいるあいだに、ショーンとの入浴の練習を重ねていたジョンズワート。
湯船もある高級宿にて、ショーンと二人で風呂に入ろうと思ったのだが。
「おかあしゃ、おかあしゃもいっしょに」
「え!?」
ショーンが、三人で風呂に入りたいと言い出してしまった。
宿に入ったさい、大きな湯船を見せてしまったからだろうか。
ホーネージュには入浴の文化があるが、デュライト家にある浴槽も、ここまで大きくはない。
基本的に、複数人が一緒に入ることは想定されていないのだ。
だが、この宿には。大人二人と子供一人ぐらいなら、ゆったりと入れるであろう大きさの湯船がある。
ショーンもなんとなくそれを理解して、一緒に入ろうと言っているのだろう。
しかし、ジョンズワートとカレンは困ってしまって。
二人は、結婚してから4年経っている。新婚とはいえない。
けれどずっとすれ違っていたし、離ればなれにもなっていたから。実質新婚のようなもので。
三人でお風呂は、ちょっと、まだ早かった。
「ショーン。二人で、二人で入ろう! ショーンと二人がいいな!」
「母さんも、今日は一人で入りたい気分!」
いつかは、三人でゆっくり湯船につかるのもいいかもしれない。
けど、今は。実質新婚で、遅れてきた仲良し期真っただ中の、今は。
三人一緒はまだ早い! と両者考えて、それはもう必死だった。
なんとかショーンの説得に成功し、ジョンズワートとショーンの二人が浴室に向かった。
大きな部屋に一人残されて、カレンはふう、と息を吐く。
今日はなんとか引き下がってくれたが、旅行はまだ続く。
ショーンは、明日も三人で入りたいと言うだろうか。
そうなったら、また回避できるのだろうか。
そんなことを考えて、カレンは、
「どうしよう……」
と両手で顔を覆い、顔を赤く染めた。
結婚から4年。3歳の子供がいる夫婦。
事情が事情だから仕方ないが……。とてもそんな年月が経っているとは思えない、落ち着きのない夫婦であった。
約1週間の旅行中、ショーンが三人で風呂に入りたいと言ったのは、日程の半分ほど。
そのたび「二人で入ろう!」と押し切って、三人での入浴を回避し続けた。
デュライト公爵邸に戻り、ジョンズワートの夏季休暇も終わる頃。
新婚じゃないのに新婚の二人は――
「来年は頑張ろう」
「そうですね。来年を目指しましょう」
と、来年には慣れてたらいいね、三人で入れたらいいね、と意気込んでいた。
果たして、来年の二人やいかに。
そんなこんなで短い夏が終わりに差し掛かり、これまたやっぱり短い秋を迎えようとしていた。
ちょうどそのぐらいの時期、チェストリーが長期の休暇をとった。
ショーンには、仕事だ、出張だ、と説明して。
出張だと言われても、ショーンはいまいち理解できなかったが。
チェストリーが長く留守にすることはなんとなくわかったようで、泣きながら彼を見送っていた。
この夏、血の繋がった父息子の様子を見て、ジョンズワートに任せても大丈夫なのでは、と判断されたのである。
ただ、ショーンがチェストリーの不在に耐えられなかった場合のことも考え、必要であれば早めに戻ってくることにもなっている。
呼び戻されたい気持ちと、本当の父子で上手くいって欲しい気持ち。
その両方を抱きながら、チェストリーはデュライト邸を離れた。
……やはり、費用のほとんどはジョンズワート持ちである。
普通に休暇をとっただけのアーティと違い、チェストリーはいつからいつまで不在になるのか、わからない。
あらゆることが、ジョンズワートとショーン次第なのだ。
ちなみに、休暇を得て恋人とともに旅行をしていたアーティは、ジョンズワートと入れ替わるような形でデュライト公爵家に戻ってきており。
「お前また俺に押し付けて……!」
と頭を抱えていた。
公爵様が不在となると、その右腕のアーティにしわ寄せがくるのである。
とはいえ、初めての家族旅行をとめることはしなかった。
なんだかんだいって、アーティはジョンズワートの味方で、あの家族を応援しているのである。
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