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2-18 彼女の、言う通りだった。
カレンが他国の農村に流れ着き、新たな暮らしを始めた頃。
ホーネージュに残されたジョンズワートは絶望し、仕事も手につかなくなっていた。
妻が誘拐されたうえに、死亡説まで流れ始めたのである。
始めのうちは必死に山中を捜索していたジョンズワートだが、数週間も経つ頃には「死亡」という言葉がずしっとのしかかってきて、動く力が出なくなってしまった。
もはや使い物にならないため、今は部下のアーティがジョンズワートの代理を務めている。
ホーネージュの冬は厳しい。冬季に山で遭難すれば、長くは持たない。しかも、カレンは馬車とともに崖から落ちている。
落ちた馬車の中やその周辺から、自分がカレンに贈ったものが発見された。
信じたくはなかったが、カレンは、あの馬車の中にいたのだろう。
「カレン……。カレン、カレン」
妻を失ってからのジョンズワートは、目から光を失い、愛しい人の名を呼ぶばかり。
あまりにも痛ましい姿に、彼の親友であるアーティさえも、仕事しろなんて言えなくなっていた。
伯爵家の三男であるアーティ・クライスは、幼い頃からのジョンズワートの親友で、今は右腕を務めている。
そんな関係だから、公爵となったジョンズワートに対してもはっきり物を言うし、必要であれば説教だってできる。そんな人物だった。
そのアーティすらもなにも言えず、ジョンズワートの復帰まで公爵家を繋いでいるのだ。
カレンが故郷の雪まつりに行きたいと言い出したあのとき、許可を出すべきではなかったのだ。
ジョンズワートにとって、カレンは本当に可愛くて、愛しい存在だったから。
彼女の外出の際には、腕の立つ護衛を複数名用意することにしていた。
アーティなどには、過保護じゃないかとも言われていたぐらいだ。
けれどジョンズワートは、伯爵家の娘で、今はデュライト公爵夫人である彼女を、本当に心配していたのだ。
ジョンズワートは、容姿にも身分にも恵まれ、若くして公爵となった男だ。
亡き父の跡を継いで領地を治める手腕が評価され、ゆくゆくは国の重要なポジションを任されるのでは、とも言われている。
さらには、貴族男性に人気のあったカレンまで妻とした。
彼女は、他の誰にもなびかなかったのに。ジョンズワートからの求婚は受けいれている。
早くに父を亡くすという辛い目に遭ってはいるが……多くを持ち合わせているジョンズワートを妬む者は多い。
カレンが危険な目に遭う可能性は、十分にあったのだ。
なのにあの日は、チェストリーしかつけずに祭へ向かわせてしまった。
ジョンズワートは、チェストリーのカレンへの忠義と、対人戦闘の腕を信じている。
だから彼だけでも大丈夫だと思い、カレンの望みを聞いてしまった。
もし、あと数人護衛がついていれば。きっと、カレンは誘拐などされずに済んだのだろう。
カレンがこんな目に遭ったのは、自分の責任だ。
公爵夫人となった彼女を、守ることができなかった。
ジョンズワートは、15歳のころ、彼女に言われた言葉を覚えている。
「そんな殿方と一緒になったら、傷だらけになってしまいますわ」
一度目の結婚の申し入れを断ったとき、彼女は確かにこう言った。
彼女に怪我をさせたのも、ジョンズワートが好きな子との乗馬という状況に浮かれたせい。
今回も、ジョンズワートの油断がこのような事態を招いた。
「……カレンの言う通り、だったな」
ジョンズワートが、愚かだから。
カレンは、10代も20代も、ひどい目に遭っている。
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