3-3 何故だか、信じたいと思えた。

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3-3 何故だか、信じたいと思えた。

「旦那様。また相手を聞きもせず、再婚の話を断ったんですって?」 「サラ……。アーティから聞いたのか?」 「断るにしても、少し目を通すぐらいはしてもいいのではありませんか?」  まったくもう、とでも言いたげなサラから、ジョンズワートは気まずげに目を逸らした。  十中八九、情報源はアーティだろう。  この同い年三人の付き合いも、もうずいぶん長くなる。  アーティは年齢が十に満たない頃から。サラは、ジョンズワートが10代半ばの頃からの付き合いだ。  立場の差はあれど、近しい間柄だった。  しかし、彼らの間に恋愛感情は存在していない。  ジョンズワートも、アーティも、サラとは兄妹のような感覚だ。  ちなみに、彼らはそれぞれ、自分が兄・姉のポジションだと思っている。 「きみこそどうなんだ? 僕と同い年なんだから、そろそろ結婚を考えてもいいんじゃないか」 「こんな状態の主人を放って結婚なんてできませんわ。お可哀相で」 「きみなあ……」  ジョンズワートは、はあ、とわざとらしくため息をついた。  恋愛感情でないというだけで、ジョンズワートにとって、サラが大事な人であることには違いない。  これでもジョンズワートは、真剣にサラのことを心配しているのだ。  サラは世話焼きなタイプで、父を亡くしたジョンズワートを懸命に支えてくれた。  今だって、妻を探し続けるジョンズワートに付き合い、デュライト公爵家に仕え続けている。  ジョンズワートがカレンを見つけるまで、自分は結婚しないとまで言うのだ。  結婚すれば、そのまま退職する可能性もあるからだろう。  彼女は、妻を探すジョンズワートの力になり続けるつもりなのだ。  サラがそういう人だと知っていたから、ジョンズワートは彼女をカレンの侍女にしたのである。  傷をつけた責任を理由に無理やり結婚させられたカレンを、サラならば、支えてくれる。そう思って。  実際、サラとカレンの仲は良好であるように思えた。  ジョンズワートがあんなミスをしなければ、カレンが誘拐されることもなかったし、サラだって結婚もせずデュライト家に残ることもなかっただろう。  二人の女性の人生を壊してしまったような。そんな気分だった。  アーティはジョンズワートに再婚の話を持ってくるが、立場上仕方なくのこと。  相手にもよるが、主人になんの報告もせず勝手に断るわけにはいかない。  本人はカレンを探すジョンズワートを応援しているし、協力もしてくれている。  サラだって同じだ。  さきほどジョンズワートをつついてきたが、再婚しろと言っているわけではない。  早くカレンが見つかるよう祈り、アーティと同じく、可能な限り捜索に協力している。  そうでなければ、カレンが見つかるまで結婚しないなんてこと、言わないだろう。    ジョンズワートは、何年かかってもカレンを諦めるつもりはなかった。  そんな彼の想いが届いたのだろうか。  ある日、カレンの捜索を続けるデュライト公爵家に、1通の手紙が届いた。  差出人は不明。通常なら、そんなものが公爵の元まで届くことはないのだが――。  内容が内容だったから、ジョンズワートに渡された。  そこには、どこか見覚えのある字で、カレンが無事であることと、彼女の居場所がつづられていた。  最後の一文には、今も彼女を想っているなら、早く来いとも。  ジョンズワートをおびき出そうとしている。ただのいたずら。そう考えることもできたし、実際、嘘の情報を掴まされたこともある。  けど、何故か。この手紙は信頼に値すると思えた。
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