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3-8 再会、してしまった。
ジョンズワートは、とてつもなく焦っていた。
カレンの住む村から離れることができず、未練たらしく酒を飲んでいたら、カレンたちがやってきてしまった。
カレンの声が聞こえると同時に、酔いなどさめた。
既に下げられたものもあるというのに、テーブルはあいたグラスだらけ。自分でも、もう何杯飲んだかわからない。
だというのに、一瞬でさあーっと冷えてしまった。
元より、周囲の者が引くレベルに酒に強いジョンズワート。これだけ飲んでも、酔いが引いた。
とにかく隠れなければと、咄嗟にテーブルに突っ伏して顔を隠すという判断ができるぐらいには。さあーっと。
カレンたちは、この店に食材を卸しにきたようだ。
幸い、彼女たちがジョンズワートとアーティに興味を持つ様子はない。
旅の者が酒を飲んでいるだけだと思われているのだろう。
このままやり過ごすことができる。そう思ったのに。
カレンの息子が、ととと、と小走りで近づいてきてしまった。
「おじたん、だいじょーぶ?」
優しい子なのだろう。見知らぬ男を心配して、テーブルの横でこてんと首を傾げている。
こうも近づかれてしまったら、その子の方を見てしまうのも無理はないだろう。
顔を上げないようにしながらも、ちらりと子に視線をやる。
カレンとチェストリーの息子のはずの彼は――
「……!」
幼い頃の自分に、そっくりだった。
自分の幼少期の姿なんて、絵として残っているものぐらいしか知らないが。
この幼子は、その絵に瓜二つ。同一人物だと言われても納得してしまうほどだ。
髪の色だって金髪ではあるが、チェストリーとは少し違う。
チェストリーの髪は暗めの金であるが、この子は自分と同じクリーミ―ブロンド。
瞳の色も、ジョンズワートと同じ深い青だ。
この子は、もしかしたら……。自分の子、なのではないか。
あまりの衝撃に、ジョンズワートは顏を上げてしまった。
この幼子のことを、もっとよく見たくて。
「きみ、は……」
ジョンズワートが、自分によく似た男の子に手を伸ばしかけたとき。
カレンが息子のあとを追い、勝手に離れちゃダメでしょう、おじさんじゃなくてお兄さんよ、なんて言いながら、ジョンズワートのそばまで来てしまった。
「旅の方ですか? 急に申し訳ありません。この店にはよく来るものですから、この子ったら、慣れすぎちゃっ……て……」
ジョンズワートは、もう顔を上げてしまっていたから。
息子を追ってテーブルの横まで来た彼女と、目が合ってしまった。
「ワート、さま……?」
「カレン……」
こうして、ジョンズワート・デュライトと、その妻だった女性・カレンは再会した。
再会、してしまった。
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