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3-17 一人の夜に、終わりを告げる。
ホーネージュへの道中、後半に差し掛かった頃、宿をとるときの部屋割りは大まかに分けて2パターンあった。
カレン、ジョンズワート、ショーンの三人が同室。アーティとチェストリーは部屋の空きに合わせて一人部屋もしくは二人部屋。
ショーンはカレンとチェストリーの子として農村で育ってきたが、まだ3歳。
今ならまだ、ジョンズワートの息子、公爵家の長男としてやり直せるかもしれない。
だから、この旅路ではなるべくジョンズワートとの時間を作るようにしていた。
それでも、ショーンをチェストリーに預けることがあった。
「チェストリー、今晩はショーンを頼めるかな」
「はいはい構いませんよー。俺はショーンの『お父さん』ですからね、それくらい余裕です」
「ぐ……。3年の壁は厚いなあ」
「はは。これから頑張ってくださいよ、旦那様。……ショーンもですけど、お嬢との時間も、しっかり取り戻してください」
「……ああ。ありがとう。きみには本当、感謝してもしきれないよ」
チェストリーは、ジョンズワートの隣にいたショーンの手を取る。
「今日は俺と同じ部屋な」
「うん!」
ショーンから見れば、今も「お父さん」はチェストリーだから。嫌がることなく、「父」との二人部屋を受けいれた。
彼らがそんなやり取りをしている最中、カレンは、ジョンズワートの後ろで恥ずかしそうに頬を染めていた。
そう、もう1つのパターンとは……いちゃいちゃしたいから夫婦二人にしてくれ! である。
息子であるショーンだって、もちろん大切だ。カレンもジョンズワートも、ショーンまで含めて、もう離ればなれになりたくないと思っている。
家族として、やり直すのだ。そのためには――何年もすれ違っていた分、二人の時間を補う必要だってある。
というのは表向きの理由。嘘ではないが、それらしい言葉を使って直接的な表現を避けている。
今までの不足していたあれそれを補うためには、息子が部屋にいると困ることもあるのである。
チェストリーだって色々理解しているが、頬を染めて俯くカレンが可哀相だから、二人でなにしてるんですか~?なんてつつくことはなかった。
***
「ワート様」
「なんだい、カレン」
「今まで、ごめんなさ……」
もう癖になっているのだろう。キスをするようになってからも、カレンはこうやって謝ろうとしてくることがある。
いつも通り、ジョンズワートはカレンの唇を自分のそれで塞いだ。
離れる頃には、カレンはぽーっとしていて。
そんな彼女を愛らしく思い、ジョンズワートは彼女の髪を撫でた。
同じベッドを使い。ジョンズワートの腕の中で、カレンがくすぐったそうに笑う。
「私たち、今までなにをしていたんでしょうね? 両想いだったのに、ずっとすれ違っていたなんて」
「ああ……。それは僕も少し思うよ。あのとき、あんなことをしなければ。あんな言い方をしなければ……。もっと早く、君とこうやって過ごせていたのかなって」
「ええ、本当に」
「でも……。だからかな。この時間の尊さが、大事さが、よりわかる気もする」
「ワート様……」
カレンは、ジョンズワートの胸にそっと身体を寄せた。
ジョンズワートもまた、カレンを抱きしめる腕に力を込める。
ぴったりとくっついて。体温が溶け合って、混ざって。境界すらわからなくなってしまいそうだった。
二人で過ごす夜は、ゆっくりと、けれど確かに時を刻んで。
分かれていた道が交差して、手を取り合って。二人の時間が、進んでいく。
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