709人が本棚に入れています
本棚に追加
2 二人、寄り添った。
「……まだ、気にしてる?」
ジョンズワートの言葉に、カレンはどう返すべきかと少し悩んで。
ゆっくりと、自分の思いを口にし始めた。
「それ、は……。当然、ではありませんか。私は、あなたにもショーンにも、本当にひどいことを……」
「……僕も、同じだよ。きみをたくさん傷つけたことを、きみをそこまで追いつめたことを、今も悔んでる」
「ワート様……」
「きみに嫌われていると思って、臆病になって。結婚したあとも、きみを守っているつもりになっていた。でも、きみのためだと思ってしなかったことや、言わなかったことが、きみを傷つけていた」
「それは、私が先にあなたを傷つけたからで……」
ジョンズワートが、そっとカレンの髪に触れる。
ラントシャフトから戻ったばかりの彼女の髪は、肩の少し下ほどの長さだ。
それをひと房とって、ジョンズワートはそっと口づけた。
「……僕たちは、似た者同士なのかもしれないね」
そう言う彼は、少し困ったように微笑んでいた。
「にたもの、どうし……」
「僕にもきみにも、非はあった。互いに臆病になっていた。傷つけあった。本当に必要なことを言わなかった。でも、今、こうして一緒にいられる。僕は、それを大事にしたい。あんなにすれ違ってもまた出会えた、一緒にいられるようになった。この時間と、この先を」
ジョンズワートはそこで一度言葉を切り、カレンの肩に触れ、自分の方にそっと引き寄せた。
「だから、カレン。もう気にしないで、なんて……僕が言えたことじゃないけれど。過去じゃなくて、これからを、一緒に見ていきたい。僕も、そうできるよう頑張るから」
こんな風に言ってもらえても、まだカレンの心は晴れない。
吹っ切れるには、時間が必要だろう。もしかしたら、吹っ切れる必要もないのかもしれない。
だって、それだけのことを、カレンはしてしまった。
互いに非があったとはいえ、妊娠の可能性を隠して逃げたのは、多数の人を巻き込む騒動を引き起こしたのは、カレンだ。
従者であるチェストリーにだって、大変な迷惑をかけてしまった。
彼は主人であるカレンのそばにずっといたから。まだ、自分のための人生を歩めていない。
カレンは、ジョンズワートとショーンだけでなく、自分に忠誠を誓ってくれる従者の人生まで壊してしまったのだ。
自身の行いについて、ずっと悔み続けることになるのだろう。
けれど、ジョンズワートの言う通りだと思った。
自分は、自分たちは、これからを見るべきだ。
自分自身のためにも、ショーンのためにも、周囲の人々のためにも。
だから。
「はい」
声は小さかったが、彼女は、確かに頷いた。
カレンのほうからも、ジョンズワートに体重を預ける。
柔らかな日の下で、ようやく夫婦となれた二人は、寄り添った。
最初のコメントを投稿しよう!