2 二人、寄り添った。

1/1
前へ
/74ページ
次へ

2 二人、寄り添った。

「……まだ、気にしてる?」  ジョンズワートの言葉に、カレンはどう返すべきかと少し悩んで。  ゆっくりと、自分の思いを口にし始めた。 「それ、は……。当然、ではありませんか。私は、あなたにもショーンにも、本当にひどいことを……」 「……僕も、同じだよ。きみをたくさん傷つけたことを、きみをそこまで追いつめたことを、今も悔んでる」 「ワート様……」 「きみに嫌われていると思って、臆病になって。結婚したあとも、きみを守っているつもりになっていた。でも、きみのためだと思ってしなかったことや、言わなかったことが、きみを傷つけていた」 「それは、私が先にあなたを傷つけたからで……」  ジョンズワートが、そっとカレンの髪に触れる。  ラントシャフトから戻ったばかりの彼女の髪は、肩の少し下ほどの長さだ。  それをひと房とって、ジョンズワートはそっと口づけた。 「……僕たちは、似た者同士なのかもしれないね」  そう言う彼は、少し困ったように微笑んでいた。 「にたもの、どうし……」 「僕にもきみにも、非はあった。互いに臆病になっていた。傷つけあった。本当に必要なことを言わなかった。でも、今、こうして一緒にいられる。僕は、それを大事にしたい。あんなにすれ違ってもまた出会えた、一緒にいられるようになった。この時間と、この先を」  ジョンズワートはそこで一度言葉を切り、カレンの肩に触れ、自分の方にそっと引き寄せた。 「だから、カレン。もう気にしないで、なんて……僕が言えたことじゃないけれど。過去じゃなくて、これからを、一緒に見ていきたい。僕も、そうできるよう頑張るから」  こんな風に言ってもらえても、まだカレンの心は晴れない。  吹っ切れるには、時間が必要だろう。もしかしたら、吹っ切れる必要もないのかもしれない。  だって、それだけのことを、カレンはしてしまった。  互いに非があったとはいえ、妊娠の可能性を隠して逃げたのは、多数の人を巻き込む騒動を引き起こしたのは、カレンだ。  従者であるチェストリーにだって、大変な迷惑をかけてしまった。  彼は主人であるカレンのそばにずっといたから。まだ、自分のための人生を歩めていない。  カレンは、ジョンズワートとショーンだけでなく、自分に忠誠を誓ってくれる従者の人生まで壊してしまったのだ。  自身の行いについて、ずっと悔み続けることになるのだろう。  けれど、ジョンズワートの言う通りだと思った。  自分は、自分たちは、これからを見るべきだ。  自分自身のためにも、ショーンのためにも、周囲の人々のためにも。  だから。 「はい」  声は小さかったが、彼女は、確かに頷いた。  カレンのほうからも、ジョンズワートに体重を預ける。  柔らかな日の下で、ようやく夫婦となれた二人は、寄り添った。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

709人が本棚に入れています
本棚に追加