709人が本棚に入れています
本棚に追加
春ー4 公爵様と、ご子息と。父親代わりだった男。
「ショーン!」
自分に向かって手を振るジョンズワートの姿を見て、ショーンはぱあっと表情を輝かせた。
ジョンズワートは、まだショーンの「父親」にはなれていない。
けれど、年上の友人。よく遊んでくれる人。それぐらいには、思ってもらえているようだった。
ジョンズワートがやってくると喜ぶのだから、とりあえず、嫌われてはいないのだろう。
ショーンをデュライト邸に連れてきてからのジョンズワートは、休憩時間のほとんどをショーンと過ごすことに費やしていた。
カレンもそれに合わせて休憩をもらい、三人でともに過ごしている。
「いこうか」
「うん!」
ジョンズワートが、まだ幼い息子を抱き上げる。
こうして子を抱いたり、手を繋いだりする姿も、ずいぶんさまになってきた。
事情を知らない者が見れば、普通の親子だとしか思わないだろう。
それだけ二人は本当によく似ているし、仲もいいのだ。
ジョンズワートは早くに父を亡くし、若くして公爵となった人物であるが。
幼い頃、ベッドで寝込むことが多かったカレンに色々な贈り物をした経験があるため、外で遊ぶのも上手かった。
この公爵様は、花冠だって作れるし、草で引っ張り合いをして遊ぶことだってできる。
他にも、葉っぱで船やお面を作ったり。四葉のクローバーを探したり。草笛を吹いてみたり。
どれも、幼い頃のジョンズワートがカレンに見せたものである。
まだ幼いショーンも、これらの遊びには大喜びで。
すっかり懐いたショーンが、自分からジョンズワートを探しに行くこともあるぐらいだ。
チェストリーとジョンズワートが並んだとき、ジョンズワートの方へ向かうこともある。
これには、チェストリーも大変複雑な心境になり。
「血、血なのか? 俺と過ごした3年より、血から感じるものなのか?」
と、ずーんと肩を落とした。
ショーンがジョンズワートに懐くことを、彼らが親子になることを、望んでいた。
しかし、自分ではなくジョンズワートを選ぶショーンを目の当たりにすれば、ショックを受けるのも仕方のないことだろう。
この3年間、ショーンの「父」だったのはチェストリーなのである。
なのに、ジョンズワートに負けることがあるのだ。
嬉しいことのはずなのに、素直に喜ぶことができず。
ヤケを起こしてジュースを飲みまくるチェストリーに――勤務時間であるため、酒は飲めないのだ――サラが付き合ってやることもあった。
血なのか!? と強めにグラスを置くチェストリーに対して、サラが一言。
「……絵になるのは確かね」
「ちくしょー!」
チェストリーは、更にジュースをあおった。
これには、サラも哀れみの視線を向けることしかできない。
父親の役割を、ジョンズワートへ渡さなければいけない。けれど、自分から離れていってしまうことが寂しい。
その狭間にいる彼に、サラがしてやれることは――こうやって、愚痴に付き合うことぐらいだった。
最初のコメントを投稿しよう!