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「おーい、エディ。今日も親父のところかぁ?」
庭の手入れをしていた老人が声をかけてきた。子供の頃から知っているルーカスという爺さんだ。
近頃エディは二週間に一度の割合で週末になると実家に帰ってきてバーディとスパーリングを行っている。
ルーカスのような近隣の住人たちはそのことを知っているので、こうして声を掛けてくるわけだが
「まァだ親父に勝てないんだって?」
と、どうも試合をしに来てるとものだと勘違いして声をかけてくる。
「だからさァルーカスの爺さんよ。俺は練習しに来てんの。試合じゃないから勝つとか負けるとかじゃないのな」
「お前のオヤジは強いからなア」
会話が噛み合わない。
相手をしていたら日が暮れる。
「まあ、とにかく俺行くよ」
「あとで応援しに行くよ」
「冷やかしの間違いだろ。金取るぞ」
「あはははは。お前はそんなことするような奴じゃないことは、こーんな小さい頃から知っとるよ」
ルーカスは手の平を膝ぐらいの高さにして笑った。
「ちぇっ、勝手にしろ!」
まったくどいつもこいつも勝手なことを言いやがる。
それでなくとも最近は近所の子供たちがバーディの元にボクシングを習いに来ているらしく、エディのスパーリング中も周りでギャイギャイ騒ぎまくっているような有様なのだ。
「とにかく邪魔すんなよ!」
エディはルーカスにヒラヒラと手を振ると、道に戻って前を向く。
さんざん文句を言っている割にはその表情は明るい。
「今日は勝つからな。待ってろよオヤジ!」
道の先で待つ父に向かって一声吠えるとエディ・〝コリンズ〟は軽やかに歩を進める。
――了――
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