送天

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「持って行かないのか」 「お前が来るまではエイミーとのんびり過ごしたい」 「別に構わないが、それを負けたときに言い訳にするなよ」 「あのな、お前との対戦成績は七勝六敗で俺が勝ち越してることを忘れるなよ」  ビリーは七勝六敗の部分を強調したが、バーディはふんと鼻を鳴らすと 「お前のは半分以上判定だろ。K.Oは俺の方が多い」  とやり返す。 「なにをォ? 勝ち越してるのは俺の方だぞ」 「強さは俺の方が上だ」  あの――というキョウジの声も届かない。 「いや強いのは俺だ」 「俺だ」  互いに譲ろうとしない元ボクサーたちの不毛な争いを止めたのは神の使いだった。 「申し訳ありませんビリー様。そろそろ行かなければなりませんので……」 「ああ、そうか」  本来の目的をすっかり忘れていた。  セラにすまないと謝ったビリーは 「……まあ、そういうわけだ」  と言ってバーディに向かって拳を突き出した。 「達者でな」  バーディはああ、と頷くと、お前もなと言って突き出された拳に自分の拳をぶつけた。  最後の見送りがこいつになるとは思っていなかったが、まあ悪くない。  ビリーはバーディを連れてきてくれたキョウジに礼を言う。 「キョウジ、あんたにも世話になった。ありがとう」 「お役に立てて良かったです」  それをきっかけに天使の羽がゆっくりと広げられる。 「それでは参りましょう」 「ああ」  あたりが光に包まれていく。  古い友人の不愛想な顔も光の中に溶けていく。  すべてが真っ白になる前にキョウジの声が聞こえた。 「よい旅を」
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