その悩みは……

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 彼女はトレイを持って怒りだした。    その時、ぼくと目が合った。  怒った顔だが、とても綺麗な目をしていて、とても可愛い女の子だった。  ぼくは、何気ない仕草も可愛いと思った。けれども、ふと、ぼくは思ったんだ。今日は彼女はその仕草が何か悩みを抱えている風だったことに。  いそいそと厨房へと向かう彼女の横顔が、時々元気がなさそうに見えることからもわかるんだ。  もし……その悩みをぼくに打ち明けてくれたなら……。  きっと、解決してやれるだろう。  ぼくにはそれができると確信していた。    さっきの可愛いウエイトレスがパタパタとトレイを持って来た。ぼくの注文通りにトマトサラダにペンネのボロネーゼ。そして、オレンジジュースが載っていた。 「ご注文は以上で!!」 「いや、後もう一ついいかい? 不躾ですまなけど、君の悩みも注文してもいいかな?」 「え?! どうしてなの?」  彼女はトレイを胸元へ寄せて驚いていた。 「ねえ、注文はまだかなあ?」    無情にも、さっきのお客に彼女が呼ばれてしまった。   ぼくは心底がっかりして彼女の後ろ姿を見つめていた。  彼女が運んでくれたランチをゆっくりと食べて、このレストランの閉店時間まで粘ろうと思ったけれど……。  いつの間にか、彼女の姿はない。  結局。  彼女の悩みは……。  その日は最後まで聞きそびれてしまった。
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