3人が本棚に入れています
本棚に追加
ぼくは悩みがスッキリした時の高揚感で、軽いステップで洒落た店内に入ると、彼女は殊更に浮かない顔でパタパタとテーブル、厨房、テーブル、厨房、と行き来してしていた。
時折、溜息を吐いたので、もう見てられなかった。
あれ? どうしてなのだろう?
最初はただのナンパのつもりだったのに?
ぼくは中央のテーブルに着くと、彼女に注文をした。
「トマトジュースとナポリタン。後、スマイルを……ここはマックじゃないからダメかな?」
彼女はさすがにプッと吹き出して、注文を受けると奥へと行ってしまった。
ぼくは少しの笑顔だけでもいいんだ。
さて、彼女の将来か……。
しばらくすると、彼女が注文したトマトジュースとナポリタンをトレイに載せて来た。
ぼくのテーブルに並べていると、急に深い溜息を吐いた。
「ご注文は以上で、それと……少しの間だけど楽しかったわ。私……ここ辞めるの……もう就職活動しないといけない……」
「ふむふむ」
「でも、不景気で……」
「続けて……」
「もう田舎に戻るしか……楽しかったキャンパスも、楽しかったイベントも、あなたも楽しかった……あら? どうして私……?」
ぼくたちはお互いに笑い出した。
洒落た店内には珍しく客が疎らだった。
食器とナイフとフォーク、そして、スプーンの音以外は静かだ。
「少しはスッキリしたかい?」
「ええ……あなたって、不思議な人ね」
「へえ。そうかい? 自分では……普通だと思ってるよ」
彼女はまた笑った。
最初のコメントを投稿しよう!