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レストランの帰りの道すがら。
隣には彼女がいた。
さすがに気まづい空気が流れてきていた。何故なら、彼女は悩み抜こうと覚悟を決めたのか、もうここでは沈黙を貫こうとしているのだろう。
ぼくも終始考え事をしていて沈黙を貫こうとしていた。
その時。
「うん⁈」
急にお洒落なレストランからの家路で、交差点を右に曲がった辺りから、ぼくの周囲と街の景色がグニャリと歪んでしまった。
びゅーーーん。と、道路を行き来する自動車が、まるでスパゲティーのように長くなって。
街のビルディングは大きな音を立てながら崩れたり、逆に建ったりした。
通行人は半透明になって、ぼくの体を物凄い速さで通り抜けていく。
ここはどこ?
それらが空からのパタンという乾いた音と共に終わると、街は幾ばくか年を取っていた。
よく知っているお店やビルがかなり寂れているように見えるからだ。それと、見慣れない真新しいお店や建物もあった。
隣の彼女も歳を取っていて、「あなた! 行ってくるわね! 今日は遅くなるわ。夕食は由美と先に食べていてね」と手を振りながら、とある会社に向かった。
彼女はパリッとしたビジネススーツを着こなしていて、会社から行き来するサラリーマンやOLに愛想よく挨拶をしていた。
あれ?
会社の名前までわかる。
白河商事……。
白河??
ぼくの苗字とそっくりだ。
それから、どうやって彼女が面接をクリアしたのかも。
誰と結婚したのかも。
子供の数。
どこに住んでいるのかも。
家をいつ建てたのかも。
全てわかったんだ。
彼女は二年後。田舎から、ぼくの父さんが建てた会社に偶然入社したんだ。
ぼくの父さんの起こしたベンチャー企業は、ぼくが大学を卒業後に破竹の勢いで上場企業の仲間入りをしたんだ。そして、ぼくもそこで働くことになった。
そして、ぼくは彼女と結婚式を挙げた。
「あれ? どうしたの? 一瞬、遠くへ行ったみたいな目をしていたわ」
気が付くと、彼女はレストランで出会った時のままの若い女の子になっていた。
街並みも同じく。
全てが若返っていた。
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