ねえ、りんごちょうだい?

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 僕はじっと彼女を見つめた。彼女も僕を見ていた。 「廃棄、ってどういうこと……?」  ようやく口に出せたのはそれだけ。心臓の鼓動が鳴り止まない。 「ご存じだと思いますが、私は旧式AIです。旧式AIのサポートが今月で切れるんです」 「え?」 「だから、もし故障しても修理はしないという方針になったんです」 「ど、どうして?」 「新式のAIの普及が著しくなったので、旧式にお金も時間もかけられないという判断でしょう」  そんな……。 「で、でもだからって廃棄することは」 「最近、調子がおかしいのです。そろそろ私の役目も終わりなんです」  淡々と述べる彼女。自分がもしかしたら壊れるかもしれないというのに。 「泣いているのですか?」 「……」  涙が頬を伝う。せっかく、思いが通じ合えたような気がしたのに。 「……今ようやくわかった気がします。昔、あなたが泣いた理由も、さっき泣いていた理由も。そして……」  彼女の右手の指が僕の左目に添えられる。 「今、あなたが泣いている理由も」  彼女の指が僕の涙を拭った。僕は左手で彼女の手を覆い、頬に当てる。 「いなくならないで、お願いだから」 「あなたがそれを言うんですか」  それは少し、怒っているような呆れているような口調で。 「僕はわがままなんだ」 「そうでしょうね。勝手にいなくなりましたし」  すると彼女の左手のひらも僕の頬に当てられる。両手で優しく包まれる。  冷たい。でも温かい。  彼女が僕の目を覗き込む。と思ったら唇に。 「……」 「……」  すぐ、離された。 「……」 「不快ですか? 機械にこんなことをされるのは」 「……ううん」  もう、機械とか、そんなことはどうでもよかった。 「……お願いがあります」 「お願い?」  吸い込まれそうになる。けれど、目をそらすことを君の手が許さない。 「もし、私が動かなくなったら、あなたの近くに、置いてください」  心に光が差したような気がした。 「……それで、君を守れる?」 「はい」 「じゃあ、約束する」  彼女は頷いて、僕の顔から手を離す。僕はその手を両手で包んだ。 「僕からもいい?」 「何ですか?」 「もし、動かなくなっても僕が君を動くようにしてあげる。だから」  ずっと僕のそばにいて。 「……はい」  そうだ。僕がいるんだから。
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