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「こんにちはー。美味しいりんごはいかがですかー?」
無機質な声は変わらず、表情も変わらず、ただひたすらこれが自分の役目というように、繰り返しその言葉を続けている。
僕が店の前まで来ると、店員さんは僕に気がついてペコリと頭を下げてくる。
「先ほどのお客様ですね。りんごは美味しかったですか?」
覚えててくれたんだ。AIだから当然かもしれないけど。
「あ、はい。美味しかった、です」
歯切れ悪く答えてしまった。でも店員さんは特に気にする風もなかった。AIだから、か。
「それはよかったです」
そして会話が終わる。
「あの……」
口を開いてはみたものの、僕は何を言えばいいのか、わからなかった。
一人は大変だね?
一人で寂しくないか?
でも相手はAIだ。そもそも感情を持っていないから寂しいのか聞くのも滑稽な気がする。ならどうして自分はここにいるのだろうかと、さらに自問自答する。
「あの……、お一人ですか?」
気の利いたことを言えない自分を殴りたくなった。
「はい、一人です」
「その……、他に誰かいないんですか?」
「いません」
「ずっと、一人でやってるんですか?」
「はい。それが私に与えられた役目ですから」
役目。今しがた僕自身思ったことだったが、本当にそういうつもりでここにいるのか、この子は。
「美味しいりんごをできるだけ沢山の人に売るのが、私の役目です」
「……楽しいですか?」
何でか聞かずにいられない。感情を持っていないとわかっている相手に何でこんなことを聞くのか、自分でも不思議だった。
僕の質問に対して店員さんはすぐに答える。
「楽しいという感情を持ち合わせてはいません」
「……AIだから?」
「はい」
わかっていたことではあるけれど、そうはっきりと言われてしまうと。何だか……。
「どうして、そのような顔をするのですか?」
「え……?」
どんな顔してるんだ、僕。
「悲しい顔をしています」
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