ねえ、りんごちょうだい?

9/15
前へ
/16ページ
次へ
 僕はそれからも、あの手この手でその人を笑わせようとした。ううん、笑わなくてもいい。何でもいい。とにかく、色んな表情を見せてほしかった。  でも、彼女はそれでも笑わなかった。怒らなかった。泣かなかった。  ある日、とうとう僕は耐えきれなくなって聞いてしまった。 『ねえ、どうしてわらってくれないの?』 『私は笑うことができません』  笑わせてあげたいと、そう思って、そう願ってきたのに。  この人はいとも簡単に、僕の期待をつぶしてくれる。 『ぼくといっしょでも、たのしくないの?』 『私は楽しいと思うことができません』 『かんじょうっていうのがないから?』 『そうですね。感情がないので、私は笑うことも楽しいと思うこともできません』  それでも僕は何かの間違いなんだと思いたかった。 『どうして、どうしてかんじょうがないの?』  少し沈黙があった。僕は次の言葉を待った。 『私は機械ですから』  僕は、泣いた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加