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僕はそれからも、あの手この手でその人を笑わせようとした。ううん、笑わなくてもいい。何でもいい。とにかく、色んな表情を見せてほしかった。
でも、彼女はそれでも笑わなかった。怒らなかった。泣かなかった。
ある日、とうとう僕は耐えきれなくなって聞いてしまった。
『ねえ、どうしてわらってくれないの?』
『私は笑うことができません』
笑わせてあげたいと、そう思って、そう願ってきたのに。
この人はいとも簡単に、僕の期待をつぶしてくれる。
『ぼくといっしょでも、たのしくないの?』
『私は楽しいと思うことができません』
『かんじょうっていうのがないから?』
『そうですね。感情がないので、私は笑うことも楽しいと思うこともできません』
それでも僕は何かの間違いなんだと思いたかった。
『どうして、どうしてかんじょうがないの?』
少し沈黙があった。僕は次の言葉を待った。
『私は機械ですから』
僕は、泣いた。
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