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棚機津女(たなばたつめ)
薄生成り色の砂浜は、眩しい光に輝いている。
沖の水平線からは、絶え間なくさざ波が押し寄せ足を洗った。
深く深く、吸い込まれそうな空の色。
まぶしい風景を背に、黑いシルエットが大きくなった。
「ゆうちゃん」
懐かしい声。
帽子を頭に乗せた手は、大きくて力強い。
満面の笑顔で光希が立っていた。
「こうちゃん ───」
吸い寄せられるように胸に飛び込んだ優織を、抱きしめた。
ずっと傍にいたような暖かさ。
懐かしい風景の中で、ときめきを感じなかった心に潤いをもたらしていく。
この人が故郷そのものだった。
まっすぐに見つめ合った。。
「ずっと傍にいてほしい」
光希がつぶやいた。
「うん」
両手を絡めて顔を近づけると、ごくあっさりと唇を重ねた。
狂おしいほど求めた面影は、形を帯びて手の中に確かな感触をもたらした。
「うちにおいでよ。
一緒に星を見よう」
海の色が、碧さを深め空がまぶしさを増した。
沖の水平線は、先ほどよりずっと近くに広がっていた。
生気を取り戻した優織の頬には、一筋の涙が落ちていた。
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