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学校の宿題のこともあったし、という言葉だけは飲み込んで父を見てみればなんだかとても嬉しそうな笑みを浮かべて隣に座ってきた。
「そっか! でも絵本のことなら父さんに聞いてくれればよかったのにな」
ニコニコと嬉しそうに笑う父は元絵本作家の現編集者だ。
彼女はそんな父に呆れを覚えつつ、「いや別にいい」と適当に返事を漏らした。妹が持ってきてくれたアイスを受け取って小さく礼を言っておいた。
「ハーメルンってあれでしょ? ぱぱが前に言ってた、子どもが百三十人も誘拐されたっていう」
「言い方はあれだけど、まぁそうだな伝承だから本当にあったかもしれないっていう話だよ。よく覚えてたね莉子」
「そりゃ何回も話されたら覚えるって。俺や杏里は適当に聞き流してたけどさ」
兄は呆れたように肩を竦めてテレビをつけると丁度五年前に行方不明になった女の子のニュースが流れていた。
「夜の間にいなくなったんだよね?この子」
「らしいわね。あんた達も、もし夜出かけるならママやパパに一言声掛けなさいよ」
「出掛けないよぉ」
母の言葉に皆が笑うが、その黒い髪の少女の写真はどこか見覚えがあるような気がした。
どこでだったかは覚えてないが、もしかしたら行方不明者ポスターとかを見たのかもしれない。モヤモヤする心を落ち着かせながら彼女はもう一度絵本に目を向けた。
「ハーメルンの怖いところはもしかしたら連れ去った子どもを食べたんじゃないかっていう噂があるところだよな」
「え!? そうなの!?」
「あくまで噂だよ。色んな考察が飛び交う話だからね、笛吹き男は。
父さんの使ってないノートパソコン欲しがってたな。やるよ、それで調べるといい」
「いいの!?」
「誕生日には新しいのやる予定だったし。
練習と思って、勉強に役立つならいいよな、ママ」
父の言葉に目を輝かせて母の方を見れば、バラしたな。と言わんばかりの恨めしい眼差しで父を睨んでいた母と視線があった。
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