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「やぁ」
突然聞こえてきた声に大きく肩を跳ねさせて勢いよく振り返った。
その先には自分の部屋で一番お気に入りの出窓があって、そこは鍵も閉めたはずなのに何故か開いている。カーテンが揺れるその間にいる人物に酷く驚いて、目を見開いた。
「朝、いやお昼ぶり……かな?
僕、ピーターパン! と、いうか……彼の役をしてるんだけど、君って今日会った子であってるかな?」
絵本のおねーさん! と笑うその子はニコニコと笑いながら何故か開いている部屋の窓に腰掛けてフルートみたいな小さな横笛をピロロ、と鳴らしてみせた。
「ぽいでしょ?」
「……ぽいって、何が?」
今まさに眠ろうとしていたのに、その子のおかげで完全に目が覚めてしまった。
ニコニコと笑いながら問いかけてくるその言葉の真意が分からず思わず聞き返してしまったがその子は困る事なくその場で宙に浮かんだ。
目を疑った。
「ピーターパン。
笛吹いて空飛んだらそれっぽく見えない?」
ニコニコと笑いながらその子はそのまま天井付近まで行ってから降りてきた。
細められたその瞳は、まるで窓の外に映る大きな満月をそのまま写したかのように、同じ色をしていた。きっと、普段ならば綺麗だと思うだろうが今はどうしてか、とても不気味だ。
不気味で、気持ちが悪い。
「君ならウェンディを任せてもいいかなと思ったんだよ。
僕が初めて僕の世界に誘って帰してあげることのできる女の子」
来てくれるでしょ〜? と、とても適当な事を言われたがそれが本当にどう言う意味なのかわからない。
ピーターパン? ウェンディ? そんなもの空想上の人物なんだから、その子が何を言ってるのか理解できずに、不法侵入者であるその子を睨みあげた。
「意味わかんないんだけど……」
「あはは、そんな怖い声出さないでよ。
僕らの世界を見て回って、そして帰る。帰れるんだよ? いいでしょ、楽しそうでしょ!」
ただ笑顔を貼り付けるだけのその子は窓辺に座り直すとこちらをじっと見つめてきた。
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