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「 " ティンカー・ベル " !」
その子の声と輝いた瞳に気がついてから勢いよく振り返ればそこには扉と自分の間に立つどデカい男が彼女を静かに見つめ、佇んでいた。
窓の枠の影が顔に差し掛かっていて、表情は薄暗かったが、その子の漏らされた呼び名に対して不満げな表情を浮かべているのはわかった。
こちらを見下すように、見定めるように見つめてから小さなため息を漏らした。その真意はわからないがめちゃくちゃに怖い。可愛らしい名前で呼ばれた男はそのままその子の方へと歩みを進めた。
「その呼び方はやめろ。
後、本人が嫌がるなら連れて行かないのが俺らの規約だ。やめとけ」
「もっと可愛く言って! 僕そんなんじゃ靡かないよ?」
「……ピーター。やめて」
「ヤキモチ? いいねいいね! まさしくティンクッて感じじゃん?」
あはは、と笑いながら現れた男を見て思った。
これが?
これがあのティンカー・ベル? 小さな妖精は夢があるのに一体どういうこと? ティンカー・ベルっていうより任侠者って感じじゃないの!? っていうかいつのまに部屋に入ってたの!?
頭の中を駆け巡るわけのわからない、まとまらない思考の所為で頭痛がしてきた。
そんなこちら側に気がついたのか、ティンカー・ベルがピーター・パンの肩を押した。
ちゃんと説明してやれ。と彼がいえばその子は面倒臭そうに部屋に入ってきた。土足厳禁だ、と言いたいがそこまで頭が回らなかったのは仕方がないことだろう。
「僕らが暮らすのは決して終わることのない夢の世界!
親に悪い子だって太鼓判を押されて、行き場のない夢を描き続ける子どもによる子どものための子どもだけの世界!
まぁ、一部、大人もいるのはいるんだけどまぁ僕らはそんな世界で暮らすために"役"になりきってるんだよ。それが世界の唯一無二のルールだからね」
大人、と言ったところで嫌そうな顔をしたのはあえて見なかったことにしておこう。
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