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Ep,01 Queen of Hearts
ピーター・パンの役だと名乗った少年のような少女はふわふわと宙を浮くと男の頭に乗りかかった。
「さぁ、ウェンディ。まずは空を飛んでみようか」
「無理よ。私、そんな非現実的なことできないもの」
そう言えば少女の隣に佇んでいたティンカー・ベルが呆れたようなため息を漏らしたのを聞いて思わずそちらを睨んだ。だが、彼がこちらを一瞥してくるので少し怖くなって目を逸らしてしまった。
何故一々ため息を吐くんだ。失礼だと思わないのだろうか、なんて思いつつも言えない自分に腹が立ってしまう。
「あ、でも朝までには帰らないとママやパパが……」
「大丈夫大丈夫。その辺りはね、心配しなくて平気だよ」
だって夢の国だぜ?と笑ったピーター・パンは窓に足をかけて屋根に出ていってしまう。ティンクもそれの後について行くから思わず「待ってよ」と声を漏らしてしまう。すると二人して窓から顔を覗かせるのだからそれだけはやめてもらいたい。本当にそう言うのはよくないからやめて欲しいというのが本音である。だって可愛くないんだもの。別に可愛さを求めているわけではないのだけれども。
薄手のカーディガンを羽織ってから靴下を履いてまだ箱から出していなかった新品のスニーカーを取り出して履く。そしてふと思い出してしまった。そういえばこの二人、私の部屋に土足で入ってきてたな。明日掃除しないと、なんて場違いなことを考えながら二人に倣って窓に足をかけて屋根に降りた。
夜風が、少しだけだが肌寒さを感じさせてくれる。
「空を飛ぶのは妖精の粉がいるんでしょ?この人がくれるの?」
ちょっと馬鹿にしながらそういって男を指差せば軽く睨まれてしまった。正直怖い。めちゃくちゃ怖い。
睨まれてすぐにピーターの後ろに隠れれば彼女はくすくすと笑いながら、腰につけていた小さな袋を手に持って見せる。一体なんだろうと覗き込めばティンクがそのまま彼女を抱き上げてしまった。
まるで私を邪魔するかのような行動に腹を立て睨みつけるように見上げてもこちらを見ることもせずにピーターと顔を近づけ袋の中身を確認しているようで、こちらを少しも見てくれないのが少し腹が立ってしまう。だが先に手を出してしまってはなんだか負けな気がするからおとなしくしておこうと視線を空へと向けた。
「足りんのか?」
「足りるよ。行って見て回って帰るだけだし」
そう言いながらピーターは彼を押しのけながら屋根にまた足をつけた。
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