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なぜか、表情が見えない。太陽の光が逆光になって、眩しくて見えないのか。わからない。
先ほどまでは普通に見えていたはずなのに、静かにこちらを見る彼女のその見えない。いや。見てはいけないその表情に思わず肩を震わせてしまったのは恐怖からであろう。
「お前は帰るからだ。
この世界に留まらないから特別だっての、聞いてなかったのか」
ピーターの代わりに声を出してくれたのはティンクだった。
優しさか、呆れなのかわからないがピーターの頭を少し乱暴に撫で回しながらそう言うティンクのおかげで彼女の表情はまた先ほどのヘラヘラと笑っている顔に戻った。
「だ、……聞いてた。そうだね、帰るのならそんなに厳しい規約は必要ないものね」
だから、と言い返そうと思ったが先ほどのピーターの顔を思い出してすぐに止めた。
納得した。そう言うように返事を漏らせば彼女は満足したように「そうそう」というが、ティンクはまた呆れたようにため息を漏らしてこちらを見下ろす。
「ただ、お前も守らないといけないルールもあるぞ。
ピーターの言うことを聞く。それと、ピーターから離れない。この二つな」
「守らなかったら?」
「規約違反。ルールを守れない奴はこの世界には必要ないんだ。そう言う奴にはちゃんと罰則がある。
ウェンディの場合は即時退場だな。俺らの有無もなくお前は元の世界のお前の家のお前の部屋のお前のベッドで目覚めるだけで終わると思う」
「思うってなに。不安要素しかないんだけど」
「今までまともなウェンディがいなかったからだよ。
僕がピーターになってからは一度もそういう意味でのウェンディは連れてきたことないからさ」
でも罰はそう言うのだって聞いてる、と言ってティンクの腕から降りた彼女の言葉に思わず目を見開いた。
「今まで、いなかったの?」
「そうだよ。言ったでしょ、選出が難しいんだよ、ウェンディは」
小慣れた感じだったから勝手に今までも何人かいたのだと思っていたがそうじゃないのか。勝手に思い込んでいただけだし、まぁそこは別に平気だろう。なんて思いながらわざとらしくため息を漏らしてみた。
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