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扉を抜けた先は、タイル張りの地面が広がる森だった。
草むらの方からは小さく歌声が聞こえてきて、なんか少し不気味だと思ってしまった杏里は思わず近くにいたティンクの服を掴んでしまった。
掴んでしまったことに気がついて顔を勢いよく上げればティンクは嫌悪丸出しの表情を浮かべて手を跳ね除け彼女を間に挟むような位置に移動した。なんだあいつ、殴り飛ばしたい。
そんな二人のやりとりを見てピーターは愉快なものを見るかのような笑みを浮かべてからそのタイル張りの森を進み始めた。
「ま、待ってよ。何か説明はないの?
なんでタイルから木や草が生えてるのか、とか草むらから歌声が聞こえるのかとか……」
「あ。説明いる?いらないのかと思った」
何言ってんだこのチビ。いや、背丈はそんなに、いや……十cmくらいは違うのだけれども。それでも何を言っているのか理解ができなくて思わず睨みつけてしまった。だが、ピーターは意にも返さずまたケタケタと笑っている。
本当に、何をしたいのかが理解できない。が、彼らにマトモさを求めてはいけないのだとは思う。求めてしまったところで疲労感しか残らないのだから。
軽く呆れたようにため息を漏らしたところでピーターは草むらに生えていた花を一本抜き取った。まるで金切り声のような頭に痛い悲鳴をあげる花達は逃げることもできずにその綺麗な花を左右に激しく振っている。周りの、少し離れたところにいる花達は「なんだ?」と不思議そうに首を傾げている。
「これは、フラワー。
よく歌うし、よく喋るんだ。これは歌が好きなやつ。あっちは噂話が好き。んで、あっちは嘘つきとか、人の悪口ばっか言うやつ。
こうやって抜くと最初はうるさいけどそのまま静かになって普通の花と一緒になるんだよ。うるさいからあんま抜かないけど」
そう言って大人しくなった花を見せてくる彼女にきっと慈悲の心はないのだろう。足元で怯えている花々を見ながら思わずなんとも言えない感情が胸の奥を締め付けてくる。
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