Ep,00 Prologue

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 今朝から、家族は出かけてしまった。  以前から父方の祖父母のところに行くと予定を立てていた。それも知っていたし昨日の時点で今日は行かないと父に進言していたから置いていかれたとかそういうのはない。  前提の話として、そもそも父方の祖父母とはウマが合わない。弟が生まれてから弟ばかり贔屓して、なんなら家族で行くといつも父と弟を介してじゃないと杏里や姉、そして母には挨拶以外言葉をかけてこない。祖父は口下手な人だとわかっているからいいのだが、問題は祖母だ。まるで我儘な女王様のような性格の人だから、正月の挨拶もあまり行きたくない。部活をして焼けた肌を見て『女の子がはしたない』なんて平然というような人だ。祖父が苦言を呈してくれたから良かったものの。あれ以来父方の祖父母宅には正月挨拶以外に行きたくないのを、父も理解していたから了承してくれたのだ。  そして、昨日の母との喧嘩だ。あのあと母の豹変ぶりが怖くて母を突き飛ばして自分の部屋に戻ってしまった。夜遅くに帰ってきた父が心配してくれたが、気まずくてメッセージアプリで父に行かないと言ったのだ。  反抗期になってから幾度か喧嘩や言い争いなどはあったが、昨夜の激情とまでは言わないがあんな風に雰囲気が変わる母を見るのは初めてで、正直いうと母ではない誰かが乗り移ってしまったのだと思って夜中にお祓いの仕方を調べてしまったほどだ。  朝も気まずくて寝ているふりをしてしまったが、お金がリビングのテーブルに置いてくれていたから、まぁやっぱりいつもの母なのだろう。  昨日のアレがなんであれテーブルの上の樋口一葉を見てテンションが上がらないやつはいないだろう。これだけあれば美味しいものがいくつも買えるだろうし、お釣りで甘いものを買うことだってできるだろう。  なんて、浅はかな思考に至ってしまうのはこの時代の中学生特有のものだとでも言っておこう。
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