『Welcome to Wonder ”END” land』

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 何やら叫び声のような音が聞こえるがうるさくは無い。ピーターの顔をチラリと盗み見れば彼女もまた鬱陶しかったらしく少し眉間に皺を寄せてその悪口ばかり言うらしい花を踏み潰した。  満足したところで動きを止めればギリギリ無事だった花達は恐怖に震えてピーターを見上げている。 「……ほんと、こういう奴らきらぁい。コソコソコソコソ、うっとおしいんだけど?」 「でも、ちょっと可哀想……」 「大丈夫だよ。こう言うのは放っといてもまた性懲りも無く生えてくるんだ」  一々気にしてたら身がもたないよ、というピーターは呆れた顔を浮かべながら歩き出す。杏里もそれについて歩けば花達の楽しそうな歌声も、密やかな音も一切聞こえなくなってしまってそれはそれで不気味だった。  静まり返るタイル張りの森に響くのは歩く三人の足音だけで、会話がなくなるのは少し嫌で少し駆け足になってピーターの隣を歩くようにすれば彼女はにこりと杏里を見て微笑んだ。 「そういえば、さっき何を聞こうとしたの?」 「あ、えっと花や動物が襲ってくるって何か聞きたくて。さらっとピーターが言ったけどちょっと理解できなくて……  この世界の人は、私……というか、ウェンディ役の人には手を出せないんじゃ……」 「うーん、ちょっとややこしい話になるんだけど……まぁ、そもそもこの世界って僕とかお姉さんみたいな人間はいなかったわけ。  この世界の神様が色んな人を何人か連れてきてから、僕みたいな人がこの世界に住み着いて、それから他にも役ができて、それに見合う子ども達を連れてきたってのが最初ね。ここまでいい?」 「えっと、」  わかりにくいよね、と苦笑いを浮かべるピーターの言葉にチラリとティンクを見た。彼はどう見ても子どもではない。でも、この世界は子どものための世界だってピーターが明言しているのだからそうなんだろうけど、どうしてもその矛盾が気になってしまう。なんて考えていればピーターはこちらの視線を辿って「あぁ」と声を漏らした。 「大人を連れてくるようになったのは役に似合うのが大人の場合だけ。  フック船長とか、帽子屋とか、魔女とかね。そう言うのは大人じゃないとダメなんだ。ティンクは特別だけど」
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