26人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
何事かと、ピーターが向いている方に視線を向ければそこには紫色を基調とした見た目をした耳と尻尾が特徴的な男がいた。なんだ、この怪しさ満点の男は。
「おやぁ? ピーターじゃにゃぁか」
「ウェンディ、あれがチェシャ猫役のやつね」
指を差して馬鹿にしたようにそう言うピーターに木の上の男、チェシャ猫は呆れた表情を浮かべてそのまま器用に尻尾を使って降りてくる。飾りではなく、どうやら本当に尻から生えてるようだ。どうなっているのだろう。
「あれ呼ばわりは酷くね? へぇ、君がウェンディ? 俺の猫っぽいセリフはどうだったにゃー?」
「にゃあって言えば猫っぽいってなんか安直だよね。素直に言っていいよ、バカみたいだって」
「お前に言ってないんだけど」
「あはは、ウケる」
あからさまに苛立ちを見せるチェシャ猫にピーターはケタケタと笑うだけでそれ以上は必要以上にチェシャ猫を見ようとせずにティンクを見て手招きをしている。チラリと彼の方を見れば水を得た魚の如く悦びに満ちた雰囲気を背負いながらもゆっくりと調子を崩すことなくこちらに近づいてきた。
こちらには近寄らず、ピーターを挟むように立つ彼になんとなく罪悪感は抱いているようでこちらを見ようとはしていない、と言うよりもそれよりもチェシャ猫に警戒している様子だ。
「ウェンディ、ティンクにいじめられてない?」
「え、あ。は、はい……特には、」
「絶対嘘じゃーん。ティンクはウェンディに嫉妬して意地悪するってのが世の常なんだから。いじめられたらピーターじゃなくて俺を頼ってね」
ウィンクをして笑うチェシャ猫のその発言があからさまに怪しい男すぎて一歩後ろに下がってしまった。それを見ていたピーターに馬鹿にした笑いをこぼされ、ティンクも嘲笑うような笑みをこぼしている。
「チェシャ猫が助けるのはアリスだけでいいだろ」
「あ? 妖精風情が調子のんなや。お前なんざ眼中に入っとらんねん」
「ガキが調子乗るなよ」
「え。何、あの二人仲悪いの?」
額をぶつけ至近距離で睨み合うティンクとチェシャ猫のやりとりに思わず身をひきながらピーターに聞いてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!