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彼も呆れているのか、面倒臭いのかこちらの隣に移動してきて「あー」と声を濁しながら頬をポリポリとかいている。
「まぁ、仲は悪いよね。
役柄とか関係なく、人間としてお互いの性格が合わないんだと思うよ。
ウェンディがいるんだからちゃんと役になり切ってほしいよね〜。ほんとそういうの規約違反ギリギリなんだけどって感じだよ」
「え、あれも規約違反に入るの?」
「ギリギリセーフかな。僕がいるからどうするかは僕が決めるんだけど、これ以上続けるようだったら罰は免れないかなぁって感じ」
そう言ったピーターの言葉が聞こえたのか、二人の動きがぴたりと止まった。
それは時間が止まるかのような感じで急にぴたりと止まって、そしてゆっくり離れ自分達の衣服を整えた。本当に一体なんなのか、と思いつつピーターを見れは笑顔を貼り付けただけの横顔からゆっくりと表情が消していく。無感情、というよりもどちらかといえば怒りに近しい感情を抱いたようなピーターに思わず息を止めてしまった。
静まり返る空間に、ピーターのため息だけが響き渡ってしまう。
それほどまでに緊迫感の漂う空間に杏里はただ困惑するしかなかった。大の大人であるティンクも、チェシャ猫も。自分より遥かに小さな少女の一変した態度に恐怖し始めたからだ。
只事ではない、と言うよりも自分に向けられていないが理解は、出来る。ピーターが怒りに似た薄暗く、仄暗く、底の見えないような闇を抱えるような感情を彼らに向けているということだけは。
怒ってる、と言うには生易しくて。でも、その言葉以上に彼女が抱いてる感情が理解できずに杏里は少し後ろに下がってしまい、靴とタイルが擦れる音が聞こえてしまう。その音に気がついた彼女が振り返った事に異常なまでに肩を跳ねさせてしまう。
「大丈夫?」
申し訳なさそうに眉尻を下げて、心配そうに近づこうとするピーターに、思わず今まで見ていた彼女は幻覚だったのではと思ってしまうほどの変わりように、自分の脳の処理が追いつかない。
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