『Welcome to Wonder ”END” land』

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 困惑しながらも不安そうにこちらを見てくるピーターに返事をしなければ、と小さな掠れた声を頑張ってもれだす。 「……うん……」 「そっか。じゃあ先に進もうか、他にも案内しないといけないところとかあるし」  少しばかり安心したように笑顔を浮かべてそう言って歩き出すピーターに理解ができずに首を傾げながら歩いてすれ違った時も、後も。少し道を進んでから振り返ってみても、ずっとティンクもチェシャ猫も動かずに直立不動のままで動かない。不気味だ。そんなに彼女に怒られるのが怖いのか、と思ってピーターの後を追いかけようとすれば後ろで何かが落ちたような音が聞こえてきたので思わずまた振り返った。  そこには膝から崩れ落ちている大きな男2人の背中が見えた。本当に、なんなんだろう、と思ってしまう。逆に彼らを心配してしまうのは自然なことで、思わずピーターの服を引っ張って彼女を止めれば彼女は不思議そうに立ち止まり振り返ってくれた。 「ねぇ、あの二人いいの?放っておいて」 「あぁ。いいよ、大丈夫。  ティンクだったらそのうち追いつくだろうし、チェシャ猫もそのうちまたひょっこり顔見せにくるから」  まるで心配するだけ無駄と言わんばかりの態度に思わず納得してしまう。納得できるところなんて一つもないのだがそれでもまぁピーターが言うのならと思ってしまう。  タイルの道を進んでいく間も後ろからティンクがついてくる気配はないし、その間、ピーターはピーターでずっと鼻歌を歌ってろくな案内もしてくれない。まぁ道すがら気になるのは歌ったり喋ったりする花や道を消していく犬だったり、バターが塗られたパンの羽をした蝶々だったり、キャンディが生えた木々だったり、本を背負った芋虫だったり。エトセトラ、エトセトラ。  気になるものが沢山横切ったり視界に入ったりしたがピーターはなんてことない様子で歩いていくのでもう何も言えないし、ティンクとチェシャ猫に対したあの表情を思い出すとすこし背中がゾワゾワと震えるから声もかけられない。  まぁ、簡単に言えば怖いのだ。怖かったのだ、彼女のあの感情のない冷たい表情が。 「あ。そうだ、ウェンディ」 「え、あ。な、何……?」  怖いから話しかけられない、と思っていれば急に立ち止まって振り返ってきたピーターに思わず肩が跳ねた。
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