『Welcome to Wonder ”END” land』

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「適当な返事だなぁ。  君の前のウェンディだぜ?気になんない?」 「えぇ……?別に、……」  特に気にはならないと言うのが本音であるが彼女は特にそんなことを気にする様子もなく言葉をつづけようとする。  こちらに意見を求めたのだからせめて聞き受けるフリだけでもしてくれればいいのになんて求めるだけ無駄なことを考えつつため息を漏らした。 「前のウェンディの弟の一人が、他の場所でだけど役をやってるんだよね」 「そうなんだ。なんの役なの?」 「オズだよ。オズ。でも頼りないから。  彼も、そろそろ降板の時期かな……」  そう言って腕を組んで片手で顎を触るピーターの言葉に首を傾げた。最後の方が少し小さな声ではあったが杏里の耳にははっきりと降板[#「降板」に傍点]と聞こえたのだ。それがどう言う意味なのかはわからないが、あからさまに言葉を漏らさなくなった杏里にピーターは何かを察したのかチラリとその少し不気味な瞳を向けてくる。 「降板って、普通に役を辞めてもらうだけだよ。彼、ここに来たばかりの頃はカカシの役だったけど、成長しちゃってね。だからオズに回ってもらったんだ。  でももう疲れたみたいだし。前から辞めたいとはボヤいてたらしいから。彼は長年この夢の国で頑張ってくれたからね」  そろそろいいんじゃない?と前を向いてしまう彼女に杏里はそう言うものなのか、と少し安堵した。もしかしたら、少し前にしていた残酷無比な話のようなことになってしまうのではないか、と考えてしまったのだ。  頑張ったらそりゃ褒美がもらえるのがこの世の常なのだから、無論のことその前のウェンディ役の弟という人もご褒美に何かをもらってあとはのんびり暮らせるのだろう。ピーターの言い方に不安を思うところはなかったから、取り敢えず杏里は安堵して息を漏らしてピーターの背中をみた。  本当にこう見ると普通の女の子、いや本当に見た目と服装のせいで少年にしか見えない言葉を続けているピーターは押してしまえば簡単に倒れてしまいそうなほど弱そうだ。  さっき、ティンクとチェシャ猫が怯えるようなところが見えないが。確かに空気の変わりようは異常だった。それまでずっと喋っていた花々も彼女の雰囲気が変わった瞬間に口を閉ざしてしまったのだから。  その変わりようは本当におかしいとは思ったが、だがやはり彼女のどこが恐ろしいのかは理解ができなかった。
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