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だって現に目の前のピーター・パンと名乗った少女は本当にどこにでもいる普通の少女なのだから。
「ウェンディ?」
どうかした?とこちらを振り返って首を傾げている彼女に思わず意識をハッキリとさせた。
ダメだ。思わず考え事をしながら歩いていた。自分の悪い癖だ、なんて思いつつため息を漏らして杏里は笑みを浮かべ首を横に振った。
「なんでもないよ。ところで、帽子屋ってどこにいるの?」
「あぁ、もう着くよ」
あっち、と言って森の中を急に曲がったピーターについて草の壁のようなところに入っていった彼女に思わず足を止めてしまった。
本当に急に場面展開があるのだから驚くのも無理はない。奥行きも横行きもまだまだ広いと思い込んでいたが、よくよく見ればずっと進んでいた方向にも草でできたような壁かカーテンを思わせるものが広がっていた。
恐る恐る草に触れれば簡単に手がすり抜けるので思わず腕を引っ込めてしまった。
本当にここを通るのか?というか、通っても平気なものだろうか。なんて思いながら杏里は周りを見渡せば「ねぇ!」と草の壁から顔を覗かせたピーターに声をかけられてしまった。
「どうしたの?行かないの?」
早くしなよ、とまるで急かすようにそう言うピーターの言葉に思わず眉を寄せてしまう。
「その草大丈夫なの?」
「なんで?別に毒とか副作用があるような草じゃないから平気だと思うけど」
そんなことを言ってるわけじゃないのに杏里はそんなことを言って見せるピーターに思わず呆れたため息を漏らしてしまう。
本当に思わずではあるが、杏里は草を見つめながら少し忌々しそうに顔を歪めてみせた。
「壁みたいでなんだか怖いのよ。ぶつかったりしない?」
「え、するわけないじゃん……草だよ……?」
杏里の発言に理解し得難いお言わんばかりに顔を歪めるピーターに思わず苛立ちを覚えてしまった。
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